中小製造業の多品種少量生産における原価計算の「落とし所」

収益が見えにくいという課題

受注生産・多品種少量のビジネスモデルは、案件ごとに内容が異なるため「結局いくら儲かっているのか」が見えにくい。厳密な原価計算を目指すと、工数の記録精度、間接費の配賦ロジック、材料の按分など、事務負荷が急激に上がる。自分が見てきた範囲では、多くの現場が材料費に経験則の倍率を掛ける程度の管理で回しているのが実態だった。

怠慢ではなく、合理的な判断の結果であることが多い。「決算のための会計で手一杯」という声は珍しくなく、原価管理にまで手が回らないのが正直なところだろう。

70点の精度を目指すアワーレート方式

現実的なのは、100点の精密さを捨てて70点の実用的な精度を取るアプローチだと考えている。その具体的な方法がアワーレートの活用になる。

やり方はシンプルで、前年度の総費用から材料費・外注費を除いた金額を総労働時間で割り、「1時間あたりの単価」を固定する。現場が15分単位で記録した作業時間にこのレートを掛け合わせれば、個別案件の採算性が見えてくる。

式にすると 「材料費 +(作業時間 × アワーレート)」 だけ。1分単位の精密な計測よりも、全案件を15分単位で揃えて比較できることの方が、経営判断には役立つ。

この計算は、Excelでも内製の簡単なツールでも仕組み化できる。大事なのは計算方法そのものよりも、全案件に同じ物差しを当てて「勝ち案件」と「負け案件」の傾向を把握すること。

機械レートを分けるべき場面

手作業が中心の工場でも、特定の工程で高価な設備を使っている場合がある。このとき、設備を使う工程と手作業工程を同じアワーレートで計算すると、設備工程の原価が過小評価されてしまう。

高価設備を使う工程については、設備の償却費や維持費を加味した機械レートを別に設定する方が実態に近い。

もう一つ意識しておきたいのが機会損失の視点。稼働率を上げようとして低レートの案件を受注すると、その設備が埋まっている間に高利益の案件を断ることになり得る。フルコストを把握した上で、戦略的に受ける・断るを判断するという考え方が重要になる。

材料原価における定尺材と端材

材料原価の計算で悩ましいのが、定尺材を切り出して使う場合の端材の扱い。再利用の可能性で割り切るのが現実的だと考えている。

特殊材で他の案件に流用しにくい場合は、半分余っても全額をその案件にチャージする。汎用材で再利用が見込める場合は、歩留まり係数(1.3倍程度)を掛けて計算する。厳密な端材管理は手間に見合わないことが多く、このくらいのルールで十分に回る。

なお、定尺材の運搬にかかる時間コストも原価に含めておくと、見積もりの精度が上がる。現場では「材料を取りに行く時間」が意外と馬鹿にならない。

在庫が利益を膨らませる仕組みを理解しておく

これは原価管理とは少し角度が異なるが、中小製造業の経営者に知っておいてほしい話として書いておく。

在庫が増加すると、会計上の売上原価が圧縮され、利益が大きく見えることがある。しかし現金は材料購入時に出ていっており、手元に残っているわけではない。利益が出ているのに資金が回らないという状況は、この構造から生まれることが多い。

受注生産であっても、先行手配や予備としての在庫は発生する。在庫を持つこと自体が悪いわけではないが、「確実に現金化できる見込みがある」在庫と「念のため持っている」在庫を区別しておくことは、資金繰りの見通しを立てる上で重要になる。

簡易PLで会社全体の生存を確認する

個別原価計算は「案件ごとの勝ち負け」を見るための道具だが、それだけでは会社全体のキャッシュフローは追い切れない。

ここで組み合わせたいのが、当月の売上から変動費(材料費・外注費)と固定費の支払い分を引いて、手元現金の見通しを出す簡易PL。これにより、個別原価で「案件の勝敗」を、簡易PLで「会社全体の生存」を確認するという二階建ての管理ができる。

この簡易PLは、仕組みとしてはシンプルなので内製で十分に対応できる。売上データと仕入データが整理されていれば、集計の自動化もそれほど手間ではない。

Excelのテンプレートが多品種少量に合わない理由

「Excel 原価計算」で検索するとテンプレートがたくさん出てくる。ただ多品種少量の受注生産に当てはめようとすると、合わないことが多い。テンプレートは品目マスタ・標準原価が整った量産品向けに作られており、案件ごとに材料も工数も変わる受注生産では枠に収まらない。加えて帳票が先に固定されるため、「全案件の一覧」「特定案件の内訳」「月次集計」といった切り口の違いにも対応できない。

アワーレートで計算した原価を1案件1行のテーブルで積み上げていけば、欲しい切り口はフィルターやSUMIF、VBAで後から作れる。テンプレートを探す前に、まず自分の計算方法とデータの持ち方を決めておく方が、結果的に早く使えるものができる。

まとめ:管理の落とし所

中小製造業における管理の落とし所は、次の3つのセット運用になる。

  1. アワーレートによる個別原価 ── 案件ごとの採算を70点の精度で把握する
  2. 簡易PL ── 会社全体の資金繰りの見通しを月次で確認する
  3. 在庫の限定的な評価 ── フロー在庫に限定し、会計上の利益と実態のズレを防ぐ

これ以上細かい管理に踏み込むと、事務コストが経営判断の改善に見合わなくなるケースが多い。逆に、この3つが回っていれば、会社の状態を大きく見誤ることはないと思っている。

会社の心拍数と血圧を把握できる仕組みを持つこと。変化の激しい環境で生き残るには、精密な計器よりも、すぐに読めて継続的に使える計器の方が役に立つ。


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