ロジックでできることにAIを持ち込まない
生産スケジュールの話になると、AIで最適化という言葉が飛び交う。でも、生産スケジューリングの本質はあくまで確定的な計算で、リードタイム、工程順序、設備能力、在庫量といった入力が揃えばロジックで回せる。
AIが力を発揮するのは、認識、需要予測、文脈を踏まえた判断などルールを明文化しきれない領域。逆にロジックで十分なことをAIでやると、結果が確率的になってたまに間違えるし、ブラックボックス化して検証も難しくなる。コストも無駄に高くつく。
AIは万能の上位互換ではなく、ロジックでは届かない領域を補う道具として使ってはじめて価値が出る。
中小製造業の壁は製品マスタにある
ロジックで生産計画を回すにはBOM、工順、標準時間、設備能力といった製品マスタが不可欠で、これらがきちんと整備されていればシステムが計算してくれる。
ところが中小の現場ではこのマスタがほとんど揃っていない。BOMはベテランの頭の中にしかなく、標準時間は勘と経験で決まっている。設計変更があってもマスタは更新されないし、そもそもマスタを作って維持する人がいない。
結果としてロジックで回せるはずの生産計画が回らず、ベテランの属人的な判断に頼り続けることになる。
しかもこれが悪循環していて、マスタ未整備でシステム化できないから人に依存する、でも忙しくてマスタ整備の余裕がない、だからマスタは未整備のまま、という繰り返しになっている。
中小にもAIをという声はあるけれど、マスタが整備されていなければAIもロジックも動かない。AIは魔法ではなく、正しいデータがあってはじめて機能する。
毎月新規品ならマスタ整備は無駄になる
ここでひとつ矛盾にぶつかる。
受注生産で多品種少量、手作業も多い。毎月ほぼ新規品が流れるような世界では、製品単位のマスタを整備しても使い捨てになってしまう。整備のコストが活用効果を上回るので、やる意味がない。
マスタがなければロジックは回らない、でもマスタを作っても使い捨て。完璧に作るか何もしないか、二択に見えてくる。
見積もりデータをそのまま簡易マスタにする
落とし所はマスタの粒度を変えること。
製品単位の完璧なBOMではなく、工程や作業レベルのマスタを持つようにする。製品は毎回違っても通る工程の組み合わせはある程度パターン化できて、切断から曲げ、溶接、塗装、組立といったパターンが実は数十種類に収まることが多い。
そして重要なのが、受注生産なら必ず見積もりをしているという事実。見積もり時に工程と時間と材料をざっくり出しているはずで、新規品であっても簡易的な積算はしている。そのデータをそのまま計画に流せば、それが簡易マスタになる。
現状では見積もりを作って受注したら、あとは現場に図面だけ渡して見積もりデータは死蔵されている。これを計画側に流すだけでよく、追加の作業はほぼゼロで見積もり時の入力フォーマットを少し整えるだけで済む。
完璧なMRP展開こそできないものの、大まかな負荷計画や納期回答の精度向上、ボトルネック工程の把握あたりは十分に回せるようになる。
100点の計画を捨てて、70点の計画を低コストで毎回出せる仕組みにする。現場のベテランが頭の中でやっている、この製品ならだいたいこの工程でこのくらい、という感覚を工程テンプレートとして外出しするイメージ。
実績を返せば精度は勝手に上がっていく
さらに見積もりに対して実績を返してやると、精度が自然に向上していく。
見積もりで溶接3時間と出したけど実績は4.5時間だったとする。次の類似品ではその差分を反映できるので、見積もりの精度が上がれば計画の精度も連動して上がる。
ベテランの頭の中にしかなかった感覚が、見積もりから計画、計画から実績というサイクルを回すことでデータとして蓄積されていく。
ここまで来ると、過去の類似品の見積もりデータを探して参考にする場面でAIが活きてくる。曖昧な条件から似たパターンを引き当てる作業はまさにAIの得意領域で、最初に書いたロジックでできることにAIを持ち込まないという原則の裏返しとして、ここにAIでしかできないことがある。