生産スケジューラーを入れると最初の壁にぶつかる
受注生産・多品種少量の工場に生産スケジューラーを導入しようとしたとき、たいてい最初の壁はマスタ整備になる。
スケジューラーを動かすには、品目ごとの工順と標準時間が必要になる。どの工程をどの順番で通るか。各工程に何分かかるか。この情報を品目ごとに登録しなければ、計画が計算できない。
多品種少量の工場は品目数が多い。受注するたびに仕様が変わる製品もある。数百・数千の品目に工順と標準時間を設定し、仕様変更のたびに更新し続けることは、数十人規模の工場には現実的ではないことが多い。
整備が追いつかないまま月日が経つ。あるいは無理やり整備しても、現場の実態と乖離した計画が出力される。「スケジューラーの計画より、自分たちで判断した方が正確だ」という声が現場から出始め、やがて使われなくなる。
全工程スケジューリングが定着しないのは、現場が怠慢なのではなく、マスタデータの整備コストがその規模の工場には見合わないからになる。スケジューラーが要求するインプットを用意できない構造的な問題で、これは見積データの再利用で一部カバーできるが、根本的な解決にはならない。
管理するポイントを絞る
全工程をスケジューリングしなくても、生産は回る。
重要なのは結果として「いつ出荷できるか」と「今どこが詰まっているか」が把握できていること。そのために必要なのは全工程の管理ではなく、重要なポイントだけを管理することになる。
出荷日と、いくつかのマイルストーンだけを管理する。それ以外の工程は現場に任せる。これを「ポイントスケジューリング」と呼んでいる。
「管理を諦める」のではなく、「管理すべきポイントを絞る」という発想の転換になる。全部を管理しようとするからマスタが整備できずに破綻する。管理するポイントを絞れば、マスタは最低限で済む。
バッファで前後工程を分断する
効果的な管理ポイントは、仕掛品としてバッファを置けるところの前後に設定する。
たとえば機械加工と受注組立が順番に並ぶ工程を考える。
素材 → 機械加工 → [仕掛品バッファ] → 受注組立 → 出荷
この中間バッファで前後工程を分断すると、機械加工と組立がそれぞれ独立して動けるようになる。機械加工側は「バッファにいつまでに届ける」という目標だけ持てばいい。組立側は「バッファから取り出して組み立て、出荷日に間に合わせる」だけを考えればいい。どちらも、相手の工程の細かい状況を把握する必要がなくなる。
管理するポイントは「出荷日」「バッファ到着期限」「投入日」の3点に絞られる。この3点が機能していれば、中間工程の細かいスケジュールはなくても生産は回る。
なおこの仕掛品バッファは、受注に紐づいたフロー在庫として意図的に設けているもので、行き先のないストック在庫とは性質が違う。受注生産での在庫の分け方については別の記事で書いた。
現場に任せる、ただし条件付き
ポイント間の作業を現場に任せると聞いて、「それは属人化ではないか」という反応が返ることがある。
ただ、手作業中心の現場には、スケジューラーには持てない情報がある。今この機械の調子はどうか。段取り替えにどのくらい時間がかかるか。隣の担当者が手が空いているかどうか。これらはリアルタイムの現場情報で、システムには載せようがない。この判断を生かすために、現場に裁量を渡す。ただし放任ではなく、3つの条件が必要になる。
バッファの状況が見えること。 どの仕事がバッファに届いていて、どれが届いていないか。これが見えないと、現場は優先順位をつけられない。ホワイトボードでも、シンプルなExcelでも、「今バッファがどういう状態か」が共有されている必要がある。
優先順位が現場に伝わっていること。 出荷が近い順、顧客の重要度順——何を優先するかのルールが決まっていて、現場が自律的に判断できる状態を作る。ルールがなければ、経験の長い人の判断が暗黙の基準になり、その人がいなくなると誰も判断できなくなる。
投入量がコントロールされていること。 前工程へ投入する仕事量を絞らないと、工程内で仕掛品が積み上がり、どれを優先すべきかわからなくなる。「詰め込みすぎない」こと自体が管理の一部になる。
属人化として問題になるのは、判断の根拠が1人の頭の中にあって、その人がいなくなると誰も判断できなくなる状態のこと。ここで言う現場への委任は、優先順位のルールを決めた上で裁量を渡すことで、属人化とは性格が違う。
受注が積み上がったとき:負荷の見える化
ポイントスケジューリングの弱点は、受注が急増したときにボトルネックが見えにくいことになる。ポイント間は現場に任せているから、特定の工程に仕事が積み上がっていても、管理側からは気づきにくい。
ここで必要なのはスケジューリングではなく、 負荷の見える化 になる。受注ごとに「どの工程グループを通るか」「概算でどのくらいの工数か」を把握し、週単位で工程別に積み上げる。精密な工数見積もりは要らない。「重い・普通・軽い」程度のランク付けで十分機能する。
この負荷の山積みは、納期回答の判断にも直接使える。「来月第2週の加工工程はすでに埋まっている」という情報があれば、引合いに対して根拠を持って答えられる。以前の記事でも書いたが、追加入力は受注時の1項目だけで、負荷の溢れと空きは把握できる。
時間軸によって粒度を変える
生産計画の粒度は、時間軸によって変える必要がある。
数ヶ月先は月単位で見れば十分で、受注の傾向や繁忙期の予測が目的になる。経営判断の材料として使う。数週間先は週単位で、負荷の溢れと空きの検知が目的になる。外注・残業の判断に使う。1〜2週間以内は日単位で、具体的な優先順位の指示が目的になる。
遠い先はぼんやり、近づくにつれて解像度を上げる。この粒度の使い分けが、限られた管理コストで機能する仕組みを作る。全工程を毎日日単位で管理しようとするから、コストが見合わなくなる。
骨格として機能すれば十分
ポイントスケジューリングで完全に解決しない課題もある。リードタイムの長い材料の手配タイミング、突発的な仕様変更への対応、バッファ量の設定——これらは個別に対処が必要になる。
ただ、これらの多くはExcelやホワイトボードで対応できる。大掛かりなシステムは要らない。
骨格となるポイント管理と負荷把握が機能していれば、肉付けは必要に応じて後から追加できる。受注生産・多品種少量の工場に必要なのは、完璧な計画より、崩れても立て直せる骨格になる。全工程スケジューラーがなければ計画が立てられない、という状態こそが本当のリスクで、人と仕組みの組み合わせで動く体制の方が、現場の変化に追従しやすい。
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