多品種少量・受注生産の中小製造業に、全工程スケジューリングはいらない

全工程スケジューリングが合わない現場

生産スケジューリングと聞くと、全工程の開始・終了を計画してガントチャートで管理する姿を思い浮かべがち。 しかし多品種少量の受注生産で手作業が多い中小製造業にこれを当てはめようとすると、たいていうまくいかない。 作業時間は人によっても製品によってもバラつくし、段取りや作業順の入れ替えは日常的に発生するし、そもそも正確な標準時間のマスタを整備し続けること自体が非現実的。

計画を立ててもすぐ崩れ、再計画してもまた崩れ、管理コストだけが膨らんで現場が疲弊していく。 全工程の詳細スケジューリングを導入したものの結局使われなくなった、というのは中小製造業でよく聞く話。

管理するポイントを絞る

全工程を管理する代わりに、主要なポイントだけをスケジューリングする方法がある。 ポイントスケジューリングと呼ばれていて、たとえば出荷と組立だけスケジュールするような形。 中小だと出荷日だけ管理しているケースも実は多い。 顧客との約束は納期、つまり出荷日だけで、社内工程は現場リーダーが経験と勘で段取りしている。 製品の種類やロットサイズの変動が大きく、細かく組んでもどうせ崩れてしまう。

出荷日だけの管理でなんとか回っている現場は、どこかに暗黙的な在庫バッファが存在しているから成立している。 それを意識的に設計するかどうかで大きく変わってくる。

管理ポイントの置き場所は在庫バッファの手前

ポイントの置き場所として筋がいいのは、在庫としてバッファを持てる場所の手前。

たとえば機械加工と組立がある製造業なら、加工品は比較的汎用的で在庫として持てるが、組立は受注仕様ごとの個別対応になる。 この間に置く中間在庫が自然なバッファポイントになっている。

素材 → 機械加工 → [中間在庫] → 受注組立 → 出荷

在庫で前後を分断できると、それぞれを独立して管理できるようになる。 バッファの後ろ側、つまり組立から出荷までは受注に紐づけて引っ張り、バッファの前側の部品加工は在庫補充として計画的に回す。 受注の変動があっても在庫が吸収して前工程は安定するし、前工程でトラブルが起きても在庫が吸収して出荷は守れる。 スケジューリングの精度が多少荒くても在庫が許してくれる。

在庫として持てるかどうかは、半製品の共通性が高いか、劣化しないか、保管コストが許容できるか、需要がある程度読めるか、といった条件次第。

結果として管理ポイントは3つになる。 出荷日は顧客との約束、バッファへの到着期限は出荷日からの逆算、投入日はバッファ到着期限からリードタイムの逆算。 中間の工程は現場の裁量に任せる。

これはDDMRP的な考え方とも通じていて、戦略的にバッファ在庫を置く場所を決め、その消費と補充をトリガーに生産を回すという発想。 全工程を精緻にスケジューリングするよりも、どこにバッファを置くかの設計の方が重要になってくる。

現場に任せる、ただし条件付き

手作業中心の現場にはスケジューラーが持っていない情報がある。 この製品とあの製品は治具が同じだからまとめた方が早いとか、あの人は今日調子がいいからこっちを任せようとか、この材料は少しクセがあるから慎重にいくとか。 こういった判断を計画に反映しようとするのは非現実的で、現場の判断の方が正しいことが多い。

ただし放任とは違う。 最低限、3つの条件が必要になってくる。 どの仕事がバッファに届いていないかが見えること、優先順位が現場に伝わっていること、投入量がコントロールできていること。

特に投入量のコントロールが重要で、仕掛を入れすぎるとどれからやるか迷い、段取り替えが増え、リードタイムが伸び、さらに前倒し投入する、という悪循環に陥る。

溢れる工程が見えない問題

ポイントスケジューリングには1つ大きな弱点がある。 投入日と出荷日だけ見ていると、受注が積み上がったときにどの工程が溢れるか分からない。 納期に間に合うかは見えても、どこがボトルネックになるかは見えない。

ただしここで全工程スケジューリングに走る必要はない。 必要なのはスケジューリングではなく負荷の見える化。

やることはシンプルで、受注ごとにどの工程グループを通るか、おおよその工数はどれくらいか、この2つだけ持っておく。 週単位で工程グループごとに山積みすると、キャパを超えそうな週と工程が見えてくる。 工数の精度は粗くてよく、8時間ではなく半日、1日、2日くらいの粒度で十分回せる。 これならマスタ整備の負担も小さく保てる。

時間軸で見方を変える

数年先の受注も含めて、受注したら納期から逆算してだいたいの工程通過時期を出し、溢れそうかどうかを判断していく。 ただし遠い先と近い先では見方を変える必要がある。

数年から半年先は月単位で、人を増やすか、設備投資するか、といった経営判断の材料にする。 半年から1ヶ月先は週単位で、外注に出すか、残業で対応するか、納期を交渉するか、といった戦術的な判断に使う。 1ヶ月以内は日単位で、投入順序の調整や現場への優先度指示に落とし込んでいく。

遠くはぼんやり、近づくにつれて解像度を上げる。 2年先の受注を日単位でスケジューリングしても仕様変更で全部やり直しになるだけだし、逆に来週の溢れに気づけないと毎週が緊急対応になってしまう。

逆算の仕組み自体はどの時間軸でも同じで、工程グループごとの標準リードタイムさえあれば回る。 違うのは粒度だけ。

それでも残る課題

ポイントスケジューリングとざっくり負荷山積みの組み合わせで、中小製造業としてはかなり高いレベルに到達している。 ただしいくつか肉付けが必要な部分は残っている。

まず材料の手配タイミング。 工程の負荷は見えていても、着手するときに材料があるかは別の話で、リードタイムの長い鋳物や特殊鋼、海外調達品などは工程の逆算とは別に手配起点を管理する必要がある。

次に現場の優先順位判断の支援。 複数の仕掛品が並んだとき、どれが本当に急ぎか、どれをまとめると段取りが減るか。 仕組みとしての見える化がないと結局ベテラン頼みになってしまう。

それから管理ポイントの通過実績。 全工程の実績収集は不要だが、バッファを予定日までに通過したかどうかだけは見ないと改善のサイクルが回らない。

最後に溢れ検知後の対応ルール。 負荷が溢れそうなことが分かったとき、納期交渉するのか、外注するのか、残業するのか、受注を断るのか。 仕組みというより経営判断のルールで、事前に決めておかないと毎回バタバタしてしまう。

どれも大掛かりなシステムが要るものではなく、Excelやホワイトボードでも始められるレベル。 骨格としてのポイント管理とざっくり負荷把握が一番重要で、これらはその上の肉付けにあたる。 骨格なしに枝葉を頑張っても効果は薄いので、まずこの骨格を固めるところから始めるのがいい。