はじめに
受注生産、少量多品種、手作業多め。こういう中小製造業で材料の仕入れがどう管理されているか、という話をまとめておく。
生産管理や原価管理の教科書的な話ではなく、現場で実際にどう回っているかという視点で書いている。結論から言うと、よくできた運用が多い。
受注番号をキーにして仕入を紐づける
受注生産の工場では、受注が入ったら番号を採番して、その番号に紐づけて仕入を入力するのが基本になる。どの案件のために何をいくらで買ったかが追える状態を作るわけで、これが個別原価の土台になる。
受注番号をキーにして、仕入だけでなく外注費や工数もぶら下げれば案件ごとの原価が見える。ただ実際のところ、すべてを厳密に紐づけているケースは少なくて、仕入をざっくり紐づけて大まかに原価を把握している工場が多い。
直接材と間接材で管理を分ける
仕入には案件に直接紐づく材料と、ボルトやナットのような共通の消耗品がある。前者は受注番号をつけて管理するが、後者をいちいち案件に紐づけるのは手間に見合わない。
よくある割り切りとしては、主材料や特注部品は受注番号で追い、共通の消耗品は間接材として別枠にする。案件原価には直接材だけ載せて、間接材は一律で上乗せするか配賦しないかのどちらかになる。
原価の粒度と仕入の粒度は一致しない
現実には、原価として追いたい粒度と仕入の粒度が合わない場面が出てくる。たとえば鋼材を1本買って、それを2つの案件で使うことがある。仕入台帳には製番を「123/124」のように併記して、両方の案件に使われたことは記録する。でも何割ずつ使ったかまでは追わない。
正確にやろうとすると、材料を切り出すたびに使用量を記録して、端材も管理する必要がある。少量多品種で手作業中心の現場にその負荷をかけるのは割に合わない。大外れしていないかのチェックができれば十分、という割り切りは合理的だと思う。
積算と実績は突き合わせられない、けど困らない
見積は鋼材単価や重量ベースで積み上げるのに対して、仕入の実績は仕入先から買った単位で記録される。しかも1つの仕入が複数案件にまたがることもある。積算の根拠と実績の粒度が違うので、見積と実績を突き合わせて精度を検証するといったことは構造的にできない。
ただ、見積は経験値でそれなりの精度が出ているケースがほとんどで、実務上はこれで困っていないことが多い。積算と実績を繋ぐために仕組みを複雑にするより、見積の精度を経験で磨く方がこの規模の製造業には合っている。
買掛や支払いは会計ソフトの仕事
買掛管理や支払いの管理は会計ソフト側の領域になる。中小製造業だと弥生会計やfreeeなどの会計ソフトを自社で回すか、税理士に丸投げするかのどちらかが多い。
仕入台帳から会計ソフトへ連携する際は、明細行のまま取り込むのではなく、仕入先ごとに合算して1行にまとめるのが一般的だ。会計側は仕入先ごとの買掛残高と支払いが合っていれば十分で、明細は業務側の台帳に残っていればいい。
業務システムは案件ごとの原価を追う場所、会計ソフトはお金の出入りを追う場所。この棲み分けを明確にしておくと、それぞれがシンプルに保てる。
仕入帳Excelが業務の中心に座っている
こうした仕入管理はExcelで運用されていることが多い。仕入台帳シートの他に発注書の雛形シートを同じブックに入れて、台帳から行を選んで発注書を作れるようにしてあるケースもある。仕入台帳が発注データのマスタも兼ねている形だ。
さらにその仕入帳が個別原価の集計元になっていたり、月次原価の帳票と結合していたり、買掛のエクスポート元になっていたりする。1つのExcelブックが複数の業務のデータソースとして機能している。
導入コストゼロで、現場の人が理解できて、壊れても直せる。中途半端にシステム化するより実用的に回っている現場は多い。
Excelの伏魔殿問題はある
もちろんExcelならではの問題はある。行をコピーして使う運用が入り込み、セルの色づけがステータス管理を担い、暗黙のルールが積み重なる。黄色は発注済み、ピンクは検収待ち、みたいなやつだ。本来データとして持つべき情報がExcelの書式として業務フローに組み込まれてしまう。
同時編集できない、編集履歴が追えない、列を追加するとどこが壊れるかわからない。こうしたExcelあるあるの課題は確かに存在する。
それでもシステム化が正解とは限らない
ではシステム化すべきかというと、そう単純ではない。
仕入帳が月次原価帳票などの他の業務とガッツリ結合している場合、仕入だけ切り出して先にシステム化するという段階的な移行ができない。月次原価を同時に作る必要が出てくるが、年商数億規模の工場の月次原価はそう簡単な数字ではない。材料費、外注費、労務費の配賦、仕掛品の扱い。それらがExcelの中に暗黙知として埋まっている。
システム化のコストは開発だけではない。既存ロジックの棚卸し、移行期間の二重運用、現場への教育、保守。すべて乗ってくる。同時編集できない程度の不満ではとても割に合わないことが多い。
動いている運用は正しい
業務フローとして安定して回っているなら、それは正しい運用だ。Excelの限界は認識しつつも、それを超えるコストを払う理由がなければ無理にシステム化する必要はない。
動くタイミングがあるとすれば、Excelを保守できる人がいなくなったとか、案件数が限界を超えたとか、月次原価の仕組み自体を見直す契機が来たとか、そういう外的な要因が生まれたときだ。
受注番号ベースで仕入を紐づけ、直接材と間接材を分け、会計とは役割を棲み分ける。この構造がしっかりしていれば、器がExcelであっても業務は回る。大事なのは器ではなく構造の方だ。