「ちゃんとした仕入管理」を目指すと行き詰まる
「仕入管理をちゃんとしたい」という話になったとき、パッケージの仕入管理モジュールを検討したり、ERPの導入を考えたりすることがある。
ただ受注生産・多品種少量の中小製造業に必要な仕入管理は、そこまでの仕組みを必要としないことが多い。仕入管理に求められるのは2つだけになる。「どの案件にいくら材料費がかかったか(個別原価の材料費部分)」と「誰にいくら払うか(支払管理)」——この2つが把握できれば、仕入管理として十分機能する。
そしてこの2つは、受注番号を軸にした紐づけと、直接材と間接材の区分で対応できる。
軸は受注番号による紐づけ
仕入台帳の基本設計は「発注1件 = 1行」で、必ず受注番号を入れることになる。
| 受注番号 | 品目 | 数量 | 単価 | 金額 | 仕入先 | 発注日 | 入荷 | 直/間 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A-001 | SUS304 t3×1000 | 2枚 | 12,000 | 24,000 | ○○鋼材 | 4/1 | ✓ | 直 |
| 共通 | M6ボルト | 100本 | 5 | 500 | △△商事 | 4/1 | ✓ | 間 |
受注番号があれば後から案件別に集計できる。どの案件に材料費がいくらかかったかが出る。これに加工費としてのアワーレートを乗せると、個別原価になる。
→ 中小製造業の多品種少量生産における原価計算の「落とし所」
受注番号での集計と、仕入先ごとの集計は同じ台帳から出せる。案件別は月次原価の元データ、仕入先別は買掛・支払管理の元データになる。1つの台帳が2つの目的を兼ねる。
直接材と間接材を分ける
受注生産の仕入には大きく2種類ある。
直接材は、特定の案件のために購入するもの。鋼材、特殊部品、外注先への支給材料。受注番号で紐づけて追跡する対象になる。
間接材は、複数の案件に共通して使う消耗品。ボルト、ナット、塗料、研磨材。発注点方式で管理していることが多く、特定の案件に紐づけない方がシンプルに回る。原価には含めないか、固定配賦で処理する。
この2つを分けておくだけで、台帳の使い方が明確になる。直接材の行が個別原価の集計元で、間接材の行は集計対象外——この区分が設計の核になる。台帳に「直/間」の列を1つ加えるだけでいい。
粒度は割り切っていい
直接材でも、粒度を完全に合わせようとすると行き詰まる。
たとえば鋼材を定尺で購入して、必要な分を切り出す。余った端材は別の案件でも使えるかもしれない。この端材をどう按分するか——ここを厳密に追おうとすると手間が増える割に、精度はそれほど上がらない。
現実的な落とし所は、材料を購入した時点で受注番号に全額紐づけること。端材が出たら次の案件で使う。端材の在庫管理は別の話として扱う。
この割り切りで個別原価の精度は多少下がるが、ベテランの見積もり精度と大きくズレることは少ない。「思ったより利益が出た・出なかった」という肌感覚とデータが乖離したときだけ、原因を追えばいい。70〜80点の精度で十分という考え方は原価計算だけでなく、仕入管理の粒度にも当てはまる。
この台帳で何が見えるようになるか
受注番号・直間区分・仕入先の3軸を持つ台帳ができると、以下が出せるようになる。
- 案件別材料費:受注番号で集計するだけ。アワーレートと合わせると個別原価が出る
- 仕入先別支払:仕入先で集計して月次合算。買掛管理に連携できる
- 発注残:入荷フラグがついていない行が発注残。どの案件の何が届いていないかが見える
逆に、この台帳では追いきれないものもある。端材の実在庫、間接材の在庫水準——これらは仕入台帳ではなく在庫管理の問題になる。受注生産の在庫をフロー在庫とストック在庫に分けて考える視点は、別の記事で書いた。
Excelで十分回る
この仕組みはExcelで十分機能する。
仕入台帳を1ファイルにまとめ、受注番号・直間区分・仕入先・入荷フラグの列を持たせる。月次で案件別に集計すれば材料費が出る。仕入先別に合算すれば買掛が出る。これで個別原価と支払管理の2つに答えられる台帳が完成する。
問題になるのは、複数人が同時に編集するようになったときや、件数が増えてファイルが重くなってきたとき。その段階になったら、バックエンドにデータベースを置くか、入力フォームを別途作るかを考えればいい。ただ数十人規模の工場であれば、件数的にもユーザー数的にも、Excelで回る期間の方がずっと長い。
仕組みを変えるタイミング
大掛かりなシステムへの移行が効くのは、外的な要因で現状維持が難しくなったときになる。人員が減って属人的な運用が維持できなくなった。案件数が増えてExcelの限界を超えた。月次原価の仕組み自体を見直す必要が出た——こうした場面になって初めて、システム化のコストが見合うかを検討する。
「ちゃんとしたシステムを入れれば仕入管理が解決する」という発想で動き始めると、現場の運用を把握しないままパッケージを入れ、結果的にExcelに戻ってくることがある。受注番号による紐づけ、直接材と間接材の区分、粒度の割り切り——この3つの構造が機能していれば、器がExcelでもシステムでも仕入管理は回る。逆にこの構造を持たないままシステムを変えても、管理の質は変わらない。
仕入管理は仕組みの複雑さで精度が上がるわけではない。軸は受注番号、区分は直接材と間接材、記録単位は発注1件1行——これだけ決めれば、受注生産の中小製造業の仕入管理として十分機能する。
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