一緒くたに語られがちな内製DX
内製DXという言葉で括られるソフトウェアには、実は目的が異なる二つの型がある。「管理精度を上げるソフト」と「工数を削減するソフト」。この二つは設計の方針も導入のアプローチも違うのに、あまり区別されないまま語られることが多い。
自分が内製で業務ソフトを作ってきた経験では、この区別を意識するかどうかで、定着するかしないかが大きく変わると感じている。
管理精度型と工数削減型の違い
管理精度型は、今まで見えなかったものを見えるようにするソフト。在庫の正確な把握、勤怠の記録、プロジェクト進捗の可視化など。導入後、数値化や構造化によって経営判断の質が上がるのが狙いになる。
工数削減型は、今までやっていた作業を減らす・なくすソフト。手作業の自動化、帳票生成、データ連携など。導入前後で時間が測りやすく、効果が目に見える。
この二つを混同すると問題が起きる。管理精度型を「工数削減」で評価すると、現場から「仕事が増えただけ」と反発される。工数削減型に「管理が良くなったか?」と問うても、そもそもそこは変わっていない。経営層への説明が曖昧になり、どちらも中途半端な投資判断になる。
両方を兼ねるソフトは成功しやすい
ただし、二つの型がきれいに分かれるとは限らない。ペーパーレス化はその典型で、紙を探す手間が減り(工数削減)、同時にデータが構造化されて管理精度も上がる。
こういう両立型は、導入してもまず成功する。当たり前の話だが、使う本人が楽になり、かつ管理も良くなるなら、反対する理由がない。
逆に言えば、成功しやすい内製DXには共通点がある。使う人自身にメリットがあるかどうか。ここが分かれ目になる。
分類するのは「ツール」ではなく「体験」
ここまで読んで、「そんなに簡単に二つに分けられるのか?」と思った方もいるだろう。CRMはどっちだ、工数入力はどっちだ、と。
結論から言うと、ツール単位で分類しようとするとうまくいかない。分類すべきなのは、ツールではなく使う人の体験の方になる。
CRMを例にすると、営業担当にとって商談内容を毎回入力するのは負担が増える体験(管理精度型)だが、過去の対応履歴をすぐ引き出せたり、フォロー漏れを通知してくれたりする部分は楽になる体験(工数削減型)になる。一つのツールの中に、両方の体験が混在している。
工数入力も同じ構造で、毎日作業時間を記録する部分は純粋に負担が増える。しかし、そのデータから自分の稼働状況が可視化されて、無理な仕事を断る根拠にできるなら、入力者本人にもメリットがある。
つまり、二つの型は「このソフトは管理精度型」「あのソフトは工数削減型」とラベルを貼るためのものではない。一つのソフトの中で、どの機能が誰にとってどちらの体験になっているかを見るための視点になる。
そして設計で考えるべきは、管理精度型の体験(負担が増える部分)をどれだけ小さくして、工数削減型の体験(楽になる部分)をどれだけ大きくできるかというバランス。そのバランスが「楽になる」側に傾いていれば自然に定着するし、「負担が増える」側に傾いているなら、次に述べるような設計上の工夫と導入戦略が必要になる。
管理精度だけを目的にしたソフトが定着しにくい理由
管理精度型の構造的な問題は、入力する人と恩恵を受ける人が違うことにある。
現場の担当者が毎日データを入力する。その数字を見て判断に使うのは管理者や経営層。担当者にとっては純粋に作業が増えただけで、自分の仕事が楽になるわけではない。
だから「入力が面倒」「Excelでいいじゃん」となって、次第に使われなくなる。管理精度型のソフトが形骸化するパターンは、だいたいこの構造で説明がつく。
管理精度型を成功させる設計のコツ
自分が管理精度を目的としたソフトを作るときに意識しているのは、作業者の負担をギリギリ変わらないラインに抑えること。
- 工数が減る → 現場が喜んで使う
- 工数が変わらない → まあ使ってくれる
- 工数が少しでも増える → 抵抗が始まる
この閾値はかなりシビアで、紙に手書きしていたものをフォームに入力するだけでも「前のほうが早かった」と言われることがある。
だから設計では、今の作業フローをそのまま置き換える形にする。入力項目は最小限にする。選択式やデフォルト値で手間を減らす。管理側としては「せっかく作るならあの項目もこの項目も」と欲張りたくなるが、それをやった瞬間に現場の負担が増えて失敗ルートに入る。
管理精度型のソフト設計は、言い換えれば管理側の欲を削る作業でもある。内製だからこそ、このさじ加減ができるのは強みだと思う。
導入アプローチも型によって変える
設計だけでなく、導入の仕方も二つの型で変えている。
管理精度型はトップダウン寄りで進める。上長に話を通して、「会社の仕組みとして必要」というお墨付きをもらう。現場にとって自発的に使う動機がないソフトは、組織としての後押しがないと定着しない。負担がプラマイゼロに抑えられていれば、「会社で決まったことなら」と使ってくれる。
工数削減型はボトムアップ寄りで進める。上長には「こういうの作りました、使ってOKですか」と許可だけ取る。あとは現場に自由に使ってもらえば、楽になるのだから勝手に広まる。むしろ上から押し付けると「やらされ感」が出て逆効果になりかねない。
このアプローチを逆にすると失敗しやすい。工数削減ツールをトップダウンで強制すると、自分のやり方がある人ほど反発する。管理精度ツールをボトムアップで放置すると、誰も自発的に使わないまま消えていく。
まとめ:型を見極めてから設計と導入を決める
内製DXに取り組むとき、最初にやるべきは「これは管理精度型か、工数削減型か、その両方か」を見極めること。
| 管理精度型 | 工数削減型 | 両立型 | |
|---|---|---|---|
| 例 | 進捗可視化、データ集計 | 自動化、帳票生成 | ペーパーレス化 |
| 現場の負担 | 増えやすい | 減る | 減る |
| 設計の要点 | 負担をプラマイゼロに抑える | 使いやすさを優先する | 自然に成功しやすい |
| 導入アプローチ | トップダウン寄り | ボトムアップ寄り | どちらでもいける |
| 成功の難易度 | 高い | 低い | 低い |
型が違えば、設計の方針も導入の戦略も変わる。ここを一緒くたにしたまま「内製DXで業務改善」と進めると、打ち手がぼやける。自分の実感としては、この型の見極めが内製DXの最初の仕事だと思っている。