「ERP」という言葉の解像度が低すぎる ── 中小製造業が本当に必要な仕組みを考える

ERPと聞いて何を思い浮かべるか

「そろそろERPを入れたほうがいいですよ」。中小製造業の経営者なら、ベンダーやコンサルからこう言われた経験があるかもしれない。

ERPと聞くと、受注から生産、出荷、会計まで、すべてが一つのシステムでつながる姿を想像する。バラバラだったExcelや紙の業務が統合されて、経営の見える化が実現する——そういうイメージだろう。

しかし、実際にERPを導入した中小製造業で、そのイメージ通りに運用できている会社がどれだけあるか。自分が見てきた現場では、かなり少ない。

ERPの「主戦場」はどこか

ERPという言葉は守備範囲が広すぎて、何を指しているのかが曖昧になりがちになる。機能を分解してみると、ERPの主戦場は明確にある。

  • 販売管理: 受注・売上・請求
  • 購買管理: 発注・仕入
  • 在庫管理: 入出庫・棚卸
  • 会計連携: 上記のデータを会計に流す

これらがERPの中核機能であり、最も成熟している部分になる。ERPが「基幹システム」と呼ばれる理由は、この商流と金流のデータを一元管理できるところにある。

生産管理モジュールを持つERPもあるが、ここが多品種少量・受注生産の中小製造業にとっては落とし穴になりやすい。

生産管理はERPの得意領域ではない

ERPの生産管理モジュールは、基本的に標準的なBOM(部品表)と工順を前提としている。同じ製品を繰り返し作る量産型の製造業には合う。

しかし多品種少量・受注生産の現場では、製品ごとにBOMが違い、工程の順序も変わり、段取りの判断も毎回異なる。標準化しきれない部分が多すぎて、ERPの生産管理モジュールに業務を合わせようとすると、カスタマイズ費用が膨らむか、現場が入力負荷に耐えられなくなるか、どちらかになりやすい。

結果として、よく見る光景はこうなる。

ERPの受発注・在庫モジュールは使っているが、生産管理は結局Excelで回している。

これはERPが悪いわけではない。ERPの得意領域と、自社が本当に困っている領域がずれているだけになる。

「ERP」で一括りにするから判断を間違える

問題の根っこは、「ERP」という一語の解像度が低すぎることにあると思っている。

経営者が「うちもERPを入れるべきか」と考えるとき、頭の中では「業務全体が一つのシステムでつながる」というイメージが先行する。しかし実態としてERPが確実にカバーするのは受発注・在庫・会計の統合であって、多品種少量の生産管理はそもそも守備範囲の外にあることが多い。

この解像度のまま導入を決めると、こうなる。

  • ERPの価格で、実質的には販売管理ソフトを買っている
  • 本当に困っていた生産の流れは何も変わっていない
  • 「思っていたのと違う」が、導入後に初めてわかる

ベンダーが嘘をついているわけではない。ERPには生産管理モジュールもあるし、カスタマイズすれば対応できると言われればその通り。ただ、その「カスタマイズ」のコストと、自社の業務に本当に合うかどうかは、別の話になる。

まず課題を切り分ける

ERPを検討する前に、自社が困っている課題を二つに切り分けることを勧めたい。

1. 商流・金流のデータ管理(受発注・在庫・会計)

ここは定型的な業務で、業種を問わず共通する部分が大きい。いわゆるコモディティ業務になる。

2. 製造プロセスのデータの流れ(見積→手配→工程→進捗→出荷→原価)

ここは自社の業務プロセスに強く依存する部分で、製品も工程も会社ごとに違う。

この二つは性質が違うのに、「ERP」という一語で両方を解決しようとするから噛み合わなくなる。

コモディティ業務は専用ソフトで十分

受発注・在庫・会計の管理は、中小製造業向けの安価な専用ソフトで十分に回せる。販売管理ソフトと会計ソフトを連携させれば、ERPの中核機能と同等のことが、はるかに低いコストで実現できる。

この領域にERPの価格を払う必要があるかは、冷静に考えてみる価値がある。

製造プロセスは内製の小さなツール群で回す

では、本当に困っている製造プロセスのデータの流れはどうするか。ここは自社の業務に合わせた仕組みを、小さく内製するのが現実的だと考えている。

狙うのは、データが一回の入力で下流に流れる構造。

受注の段階でデータを確定させ、そこから手配・工程・進捗・出荷へとデータが流れていく。人間がやるのは確認と修正だけ。二重入力をなくすことが、最も効果の大きい改善になる。

大掛かりなシステムは要らない。Excelをベースに、シートの役割を分離し、VBAで制御するだけでも、この流れは作れる。以前の記事で書いた「データシートをDBのように扱い、UIシートと分離する」設計がそのまま使える。

ポイントは、最初から全工程を一気に作ろうとしないこと。まずは最もデータの二重入力が多い部分、たとえば受注と手配の間をつなぐところから始めて、うまくいったら次の工程へ広げていく。

ERPが合う会社、合わない会社

ERPを否定したいわけではない。ERPが合う会社は確実にある。

  • 拠点が複数あり、リアルタイムでデータを共有する必要がある
  • 製品の種類が比較的限定されていて、BOMや工順が標準化できる
  • 管理部門に、システムを運用・活用できる人材がいる

こうした条件が揃っていれば、ERPの統合力は大きな武器になる。

一方、多品種少量・受注生産で、拠点も一つか二つ、製品ごとに工程が変わるような中小製造業であれば、ERPの恩恵を受けにくい構造にある。その場合は、コモディティ業務を安価な専用ソフトに任せ、製造プロセスの部分は自社に合った小さなツールを内製で作るほうが、コストも導入の速さも、変化への対応力も上回ることが多い。

「ERP」の解像度を上げることから始める

「うちもERPを入れるべきか」という問いに対して、自分の答えは「その前に、ERPという言葉の解像度を上げましょう」になる。

自社が本当に困っているのは、受発注・在庫の管理なのか、製造プロセスのデータの流れなのか。前者ならERPでなくても安い専用ソフトで解決できる。後者ならERPでも解決しにくいことが多く、内製のほうが合う可能性がある。

ERPという一語に惑わされず、課題を分解して、それぞれに合った手段を選ぶ。地味だが、これが中小製造業のシステム投資で最も失敗しにくいアプローチだと思っている。