納期回答は、受注データと1項目で仕組み化できる

納期回答は誰がやっているか

多品種少量・受注生産の中小製造業では、納期回答はだいたい工場長かベテランのリーダーが担っている。顧客から「いつできる?」と聞かれたら、頭の中で今の仕掛りと先の受注を思い浮かべて、「3週間くらいですかね」と答える。

継続取引の顧客なら「○月○日までに欲しい」と納期指定で注文が来ることもあるが、その場合でも「受けられるかどうか」の判断は同じ人の頭の中で行われている。

この判断が間違っていても、すぐにはわからない。保守的すぎる回答で受注を逃しても、それは見えない機会損失になる。楽観的すぎる回答で受けてしまえば、現場が残業や外注で帳尻を合わせることになり、利益が飛ぶ。

経営インパクトが大きいのに、仕組み化されていない

考えてみると、納期回答は中小製造業における最も経営インパクトの大きい判断の一つになる。

受注するかしないか、いつ届けると約束するか。この判断が売上と利益率の両方を左右している。受けすぎれば現場が破綻し、断りすぎれば売上が立たない。

にもかかわらず、この判断を支える仕組みを持っている中小製造業はほとんど見たことがない。根拠は特定の人の記憶と経験。その人が休んだり辞めたりしたら、誰も精度の高い納期回答ができなくなる。

原因は「負荷が見えていない」こと

なぜ仕組み化されていないかというと、工場の負荷状態が可視化されていないからになる。

受注データは何かしらの形で記録されている。Excelでも、販売管理ソフトでも、受注伝票でも、品名・数量・納期は残っているはず。しかしそのデータから「来月の第2週、うちの工場はどのくらい埋まっているか」が見えるかというと、見えていない会社がほとんどだと思う。

データはあるのに、判断に使える形になっていない。これが問題の正体になる。

負荷の見える化は、簡単なExcelで始められる

大掛かりな仕組みは要らない。受注データを一覧にして、納期から逆算して週単位で並べるだけで、負荷の濃淡は見えてくる。

たとえば、受注一覧に納期が入っていれば、「納期が来月第2週の受注がこれだけある」という集計はExcelで簡単にできる。それだけで、今まで頭の中にしかなかった情報が目に見える形になる。

精度はざっくりでいい。今の比較対象がゼロ——つまりベテランの記憶だけ——なのだから、多少粗くても可視化されているだけで判断の質は大きく変わる。

「来月の第2週、すでに5件入っている」という情報があるだけで、新しい引合いに対して「この週は厳しいので翌週でどうですか」と根拠を持って答えられる。

追加で必要な入力は、最大でも1項目

ここまでは受注データの納期を並べるだけだが、もう一歩進めて負荷の「量」を積みたくなる。件数だけではなく、どのくらいの生産ボリュームがあるかを知りたい。

ここで生産スケジューラーを入れようとすると、製品別の標準時間マスタ、工順マスタ、工程別のキャパシティ設定……と、使い始める前に膨大なマスタ整備が必要になる。多品種少量の製品ごとにこれを整備するのは、現実的ではないことが多い。

しかし負荷のざっくりした可視化が目的なら、そこまでの精度は要らない。

受注金額が使えるケース。 受注金額と生産負荷がある程度相関する場合は、金額をそのまま負荷の代理指標にできる。受注データには金額が必ずあるから、追加入力はゼロ。今あるデータだけで、週ごとの負荷を金額ベースで山積みできる。

金額と負荷が相関しないケース。 材料費の比率が高い製品と加工費の比率が高い製品が混在するような場合、金額だけでは生産負荷を反映できない。この場合は、受注時に「工数ランク」のようなものを一つだけ登録してもらう。たとえばS・M・Lの3段階でもいい。精密な工数見積もりではなく、「この案件は重い・普通・軽い」という粒度で十分になる。

どちらのケースでも、追加で必要な入力は最大1項目。それだけで負荷の山積みと溢れの検知ができるようになる。

作り込む価値がある仕組み

ざっくりExcelで始められると書いたが、だからといってずっとざっくりのままでいいわけではない。納期回答は経営インパクトが大きい判断だからこそ、ある程度作り込む価値がある。

作り込むといっても、生産スケジューラーのような大掛かりなシステムを指しているわけではない。Excelの上で、受注データから負荷を自動計算し、キャパシティの上限を超えている週を警告するような仕組みを作る。受注が追加されるたびに負荷の山が更新され、溢れが一目でわかる状態にする。

過去の実績が溜まってくれば、製品の種類ごとに実績工数の傾向が見えてくる。最初はS・M・Lの3段階だったものが、もう少し精度の高い数字に置き換わっていく。仕組みを使いながら精度を上げていけるのは、内製ならではの強みになる。

生産スケジューラーとの違い

生産スケジューラーは、工程単位で詳細な計画を立てるツール。どの機械にいつどの作業を割り当てるかを最適化するのが目的になる。

ここで提案しているのは、それとはまったく違うレイヤーの話。受注データから週単位の負荷の塊を積み上げて、溢れているかどうかを見るだけ。工程の詳細な割り当ては扱わない。

これは以前の記事で書いたポイントスケジューリングの考え方と同じで、全工程を管理しようとするのではなく、経営判断に必要なポイントだけを押さえる。納期回答に必要なのは「この週は空いているか埋まっているか」であって、「火曜日の午後にA旋盤が空いているか」ではない。

まとめ:納期回答を属人化から解放する

納期回答の仕組み化は、こう進める。

  1. 受注データを一覧にする。 これは多くの会社ですでにあるはず
  2. 納期から逆算して、週単位で負荷を並べる。 Excelで十分
  3. 負荷の量を積む指標を決める。 受注金額か、ダメなら工数ランク1項目を追加
  4. キャパの上限ラインを引いて、溢れを可視化する
  5. 実績を蓄積して、精度を上げていく

生産スケジューラーも、ERPの生産管理モジュールも要らない。受注データと1項目あれば、納期回答を特定の人の記憶から解放できる。

最初はざっくりでいい。ざっくりでも、ゼロよりはるかにましだから。そこから使いながら育てていくのが、中小製造業の内製DXらしいやり方だと思っている。