内製DXの第三の選択肢 ──「作る」前に「やめる」を考える

システム化の依頼が来たら、まず疑うこと

内製DXを進めていると、社内からシステム化の依頼が出てくる。「この週報をExcelじゃなくてシステムで入力できるようにしてほしい」「この集計作業を自動化してほしい」。

依頼が来たら作る。それが内製DX担当者の仕事に見える。しかし、ここで一つ立ち止まって考えるべきことがある。

その業務は、そもそも必要なのか。

以前の記事で、内製DXには「管理精度型」と「工数削減型」の2つがあると書いた。管理精度型は見えないものを見える化する。工数削減型は手間を減らす。どちらも「業務が存在する」ことを前提にした改善になる。

しかし実際の現場には、存在自体が疑わしい業務がある。ここに手を入れるのが第三の選択肢、「廃止型」 になる。

誰も見ていない資料が作られ続ける構造

中小製造業の現場で、こういう光景は珍しくない。

  • 毎週作成される週報。上司は読んでいない
  • 月次で集計される実績表。会議資料に載るが、その数字について議論されたことがない
  • 日報を全員に書かせているが、集計も分析もされずフォルダに溜まっていく
  • 「前任者がやっていたから」という理由だけで続いている帳票

これらは、始まった当初には目的があったはず。しかし目的が形骸化しても、作業だけが慣性で残る。やめるきっかけがないから続いている。誰かが「これ要りますか?」と聞かない限り、止まらない。

そしてここに「この資料の作成をシステム化してほしい」という依頼が来る。システム化すれば作成の手間は減る。しかし、誰も見ていない資料の作成が楽になっただけで、無駄がデジタルに移っただけになる。

プロセス改善がいちばん効く場合がある

ツールを作って業務を効率化するのが内製DXの仕事だと思いがちだが、業務プロセスそのものを見直すほうが効果が大きいケースは多い

たとえば、ある帳票の作成に毎週2時間かかっているとする。これをシステム化して30分に短縮すれば、週1.5時間の削減になる。しかし、その帳票が実は不要だったとわかれば、削減効果は週2時間。しかもシステムを作る工数がゼロになる。

作るより、やめるほうが速い。

もちろん、すべての業務を疑い始めたら何も進まない。しかし少なくとも「システム化してほしい」という依頼が来たとき、作り始める前にその業務の目的と利用実態を確認する工程を挟むだけで、無駄なシステムを作るリスクを大幅に減らせる。

ただし、DX担当者1人では「やめる」は決められない

ここが現実の壁になる。

「この資料、誰が見ていますか?」は正論だが、依頼してきた上司や他部門に対して、DX担当者の立場からは聞きにくい。特に中小企業では、DX担当者が若手だったり兼任だったりして、業務の要否を問える位置にいないことが多い。

「やめましょう」と提案するのは、その業務を続けてきた人の仕事を否定するように聞こえかねない。正しいことを言っていても、組織の中では通らないことがある。

だから廃止型のDXは、DX担当者単独ではできない。経営者の協力が必要になる。

経営者の役割は「やめていい」と言うこと

内製DXにおける経営者の役割は、予算を出すことだけではない。管理精度型であれば「何を見たいか」を決める。工数削減型であれば「何を優先するか」を決める。

廃止型では、経営者の役割は 「やめていい」と言うこと になる。

DX担当者が「この帳票、システム化の前に利用状況を確認したいのですが」と聞ける空気を作る。確認した結果「実は誰も使っていない」とわかったとき、「じゃあやめよう」と判断を下す。この判断はDX担当者にはできない。業務を廃止する権限を持っているのは経営者だけになる。

逆に言えば、経営者が「やめていい」と言えない組織では、廃止型のDXは機能しない。不要な業務がシステム化され、無駄が効率よく回り続ける。

そしてもう一つ、経営者自身が気をつけるべきことがある。以前の記事で、管理精度の向上は経営者の判断力を引き上げる「武器」だと書いた。これは正しいが、武器は多ければ多いほどいい、とはならない。

経営者が「あれも見たい、これも把握したい」と求めると、その分だけ現場の入力負荷が増え、DX担当者の開発負荷が増え、管理帳票が増える。武器を増やしすぎた結果、どの数字も中途半端にしか見ない状態になれば、武器を持っていないのと同じになる。

廃止型DXの対象は、現場が惰性で続けている業務だけではない。経営者自身が過去に「見たい」と言って作らせた管理帳票も含まれる。かつて必要だと思って作らせたが、今は見ていない。しかし自分が頼んだ手前、やめようとは言い出しにくい。こうして経営者側からも不要な業務が生まれ続ける。

本当に使う武器だけを手元に残す。それは現場に「やめていい」と言うのと同じかそれ以上に、勇気が要ることかもしれない。

「やめていいか」を確認する方法

とはいえ、経営者もすべての業務の利用実態を把握しているわけではない。DX担当者側から判断材料を出す必要がある。ここは角の立たない形で確認する方法がある。

要件定義として聞く:

システム化の依頼が来たとき、作り始める前に確認するのは当たり前のことになる。「この資料は誰がいつ、どういう判断に使っていますか?」は、要件定義として自然な質問であり、業務の要否を問うているようには聞こえない。

この質問に明確な答えが返ってこない場合、その業務は形骸化している可能性が高い。

データで確認する:

ファイルサーバーに置かれている資料であれば、最終アクセス日時を確認できる。半年間誰も開いていないファイルがあれば、それは事実として示せる。人に「見ていますか?」と聞くと角が立つが、データが示す事実に対しては反論しにくい。

どちらの方法も、DX担当者が「この業務は不要です」と言っているのではなく、事実を集めて経営者に判断材料を渡しているだけになる。判断するのは経営者。DX担当者の仕事は、判断できる材料を揃えることになる。

DXは1人では回らない

このシリーズでは、内製エンジニアがAIを活用して社内ツールを高速開発するアプローチを繰り返し勧めてきた。しかし内製DXは、技術だけで完結する話ではない。

管理精度型のDXでは、経営者が「何を見たいか」を決めなければ設計できない。廃止型のDXでは、経営者が「やめていい」と判断しなければ動けない。工数削減型ですら、現場の協力がなければ定着しない。

DX担当者は道具を作れる。しかし、何を作るか、何をやめるかの判断は、経営者と一緒にやるしかない。内製DXの成否を分けるのは、技術力よりも、経営者とDX担当者が同じ目線で業務を見られる関係があるかどうかになる。

新しいツールを作る前に、まず今ある業務を一緒に眺めてみる。「これは何のためにやっているんだっけ?」と問い直す。その結果やめられる業務が見つかれば、それはシステムを1本作るより大きな成果になることがある。作ることだけがDXではない。やめることもDXになる。