見積番号から始めるデータの流れ ── 受注起点では見えないフィードバックループ

受注番号からデータが始まる会社が多い

中小製造業のデータ管理で、最も一般的な起点は受注番号になる。受注が確定した時点で番号を振り、その番号で製造指示、仕入、工程管理、出荷、請求と紐づけていく。

このシリーズでも、受注番号を軸にしたデータの紐づけを繰り返し勧めてきた。仕入管理、品質管理、納期回答——いずれも受注番号を一本の串にして情報を通す考え方になる。

受注番号を起点にすること自体は間違っていない。しかし、ここで一つ見落とされがちな問題がある。受注の前には見積もりがある。 そして多くの会社で、見積もりと受注のデータがつながっていない。

見積もりは「使い捨て」にされている

受注生産の中小製造業であれば、ほぼ確実に見積もりをしている。顧客から引き合いが来て、材料費・加工時間・外注費を積算し、見積書を出す。

このとき見積もりの中には、その案件の原価構造がすでに入っている。どの工程にどれだけ時間がかかるか、材料費はいくらか、外注はどこに出すか。受注前の段階で、これだけの情報が一度は整理されている。

しかし受注が決まると、多くの会社ではここで断絶が起きる。受注番号が新しく採番され、製造は受注番号で動き始める。見積書はファイルに綴じられるか、フォルダに保存されて、二度と参照されない。

見積もりの時点で積み上げた情報と、受注後の実際の業務が、番号で結びついていない。見積もりが使い捨てになっている。

見積番号と受注番号を紐づけるだけで変わること

やるべきことは単純で、見積番号と受注番号を紐づけるだけになる。見積台帳に受注番号の列を追加する、あるいは受注台帳に見積番号の列を追加する。どちらでもいい。

この紐づけが存在するだけで、以下のことが可能になる。

1. 積算と実績の比較ができる

見積もりの段階で「溶接3時間、材料費5万円」と積算したものに対して、実際にかかったコストを突き合わせられる。見積もり時の想定と実績がどれだけ乖離しているかがわかる。

以前の記事でアワーレート方式による個別原価管理を書いたが、原価の「実績」だけ見ていても、それが高いのか安いのか判断しにくい。見積もりの「積算」という比較対象があって初めて、乖離の大きさと方向がわかる。

2. 見積もりの精度を改善できる

積算と実績の差が蓄積されれば、見積もりのどこにズレがあるかが見えてくる。「溶接工程はいつも1.5倍かかっている」「材料費は見積もりより低く収まる傾向がある」。このフィードバックがあれば、次の見積もりでは最初から補正できる。

以前の記事で、見積もりデータを生産計画の簡易マスタに流用する方法を書いた。見積もりを計画に使う——これは前方向への流れになる。今回の話はその逆で、実績を見積もりに返す——後方向への流れになる。前方向と後方向の両方が回って、初めてサイクルが成立する。

3. 見積もりデータがそのまま実用マスタになる

見積もりと受注が紐づいて、さらに実績でフィードバックが返ってくると、見積もりデータの精度が時間とともに上がっていく。こうなると、過去の見積もりデータは「正確さが検証された積算情報」の集まりになる。

以前の記事で、中小製造業ではBOMや標準時間の整備が進まないと書いた。完璧なマスタを一から作るのは工数が重すぎる。しかし、見積もりデータを起点に、実績で補正しながら育てていけば、日常の業務の中で自然にマスタが育つ。整備のための特別な作業は要らない。

受注にならなかった見積もりにも価値がある

見積番号で管理するもう一つの利点は、受注にならなかった案件のデータも残ることにある。

受注番号を起点にすると、受注になった案件しかデータに残らない。しかし実際には、見積もりを出したうち受注になるのは一部であり、受注にならなかった案件の情報は消えてしまう。

受注にならなかった見積もりには、価格面で折り合わなかった、納期が合わなかった、仕様が合わなかったなど、何らかの理由がある。この情報が蓄積されれば、受注率の傾向が見えてくる。「この価格帯だと失注する」「このリードタイムでは取れない」といった営業判断の材料になる。

見積番号を起点にしたデータ管理は、受注以降の業務だけでなく、受注の手前にある営業活動の可視化にもつながる。

紐づけの粒度は「見積番号=受注番号」でなくていい

実務上、見積もりと受注が1対1に対応しない場合も多い。1つの見積もりから複数の受注に分かれることもあるし、見積もりを何度か改定してから受注が決まることもある。

ここで完璧な対応関係を作ろうとすると、仕組みが複雑になりすぎる。現実的な落とし所としては、受注データに「元の見積番号」を1つ持たせるだけで十分に機能する。改定がある場合は最終版の見積番号を入れておけば、積算との比較は成立する。

以前の記事で繰り返し書いてきたが、完璧を目指して始められないより、70点で回し始めるほうがはるかに価値がある。見積番号と受注番号の紐づけも同じで、厳密な対応関係がなくても、つながっているだけで見える景色が変わる。

見積もりを起点にすると、データの流れが一本になる

ここまでの話を整理する。

受注番号を起点にしたデータの流れ:

受注 → 製造 → 仕入 → 検査 → 出荷 → 請求

これに見積番号を加えると:

見積 → 受注 → 製造 → 仕入 → 検査 → 出荷 → 請求 → 実績を見積にフィードバック

起点が一つ前に伸びて、終点からフィードバックが返る。直線がループになる。

このシリーズで繰り返し書いてきた「受注番号を串にする」という考え方は変わらない。ただし、その串の先頭に見積番号をつなげるだけで、データの活用範囲が大きく広がる。新しいシステムは要らない。見積台帳と受注台帳に、お互いの番号を1列追加するだけでいい。

見積もりは使い捨てにするには惜しいデータになる。中小製造業が日常的に作っている見積もりの中に、原価管理の基準、生産計画の簡易マスタ、営業分析の材料がすでに入っている。それを活かすために必要なのは、番号を一つつなげることだけになる。