中小製造業の内製DX ── 判断に正解はない。確率だけが動かせる

前の記事の続きとして

前の記事で、判断に迷うとき「会社の生き方に合わせて選ぶ」という話を書いた。

中小製造業の内製DX ── 判断に迷うとき、何に合わせて決めるか

あの記事で言った「生き方」は、すでにある会社の個性のことだった。ただ、会社には「その生き方そのものを揺るがすかもしれない判断」もある。新しい事業領域に踏み込む。大きな設備投資に踏み切る。こういう決断は、「会社の生き方に合わせる」だけでは答えが出ない。

IT担当者がこういった判断を直接下すことは少ない。ただ、システム導入や業務改善を通じて経営に近い場所に立つことはある。そういう場面で、この種の判断にどう向き合うかの考え方を書いておきたい。

正解はあるか

小さな判断には根拠が出しやすい。コストの差が明確、機能が揃っているかどうかが確認できる。

会社の方向性に関わる大きな判断になると、様相が変わる。フレームワークを使って整理しても、自分の会社の文脈に当てはめたときに正しいかどうかは教えてくれない。同じ選択をして成功した会社の話は語り継がれるが、同じことをして失敗した会社は記録に残りにくい。

ビジネスに普遍的な正解はない、というのが自分の結論で、すべての大きな決断は不確実な未来への賭けになる。

正解がないなら何があるか

正解の代わりにあるのは、環境との整合性が取れているかどうかだけだと思っている。

たとえば、ある設備に投資して5年間は利益が出ていたのに、市場が変わって受注が減ったとする。この投資は「間違い」だったのか。投資した時点では環境に合っていた。合わなくなったのは、環境の方が動いたから。「正しかったのに間違いになった」のではなく、整合性が崩れた——そう捉える方が実態に近い。

ただし、この見方も万能ではない。変化して生き残った企業を「環境に合っていた」と言い、何百年も変わらない老舗も「環境に合っていた」と言える。何でも後付けで説明できてしまう。生き残ることに普遍的な法則はなく、あるのは個別の文脈だけになる。

では何ができるか

普遍的な法則がないとなると、何をやっても同じなのかという話になる。それは違う。

将来は、完全なコントロールでも完全なランダムでもない。時間が短い、範囲が狭い、自分に近いほどコントロールできる。遠い将来・広い範囲になるほど、確率的になる。製造業で言えば、今月の納期を守ることは高い確率でコントロールできるが、来年の受注がどこから来るかは誰にも分からない。

コントロールできる近い部分の積み上げが、遠い部分の確率をわずかに動かす。ただし、確率を上げる方法は文脈次第で変わるから、普遍的には言えない。言えるのは 「確率を確実に下げる行動」 になる。

  • 環境の変化を見ようとしない
  • 過去の成功パターンに固執する
  • フィードバックを遮断する
  • 一つの賭けに全リソースを集中する
  • 回復できないレベルの損失を出す

共通しているのは、現実を見る回路が内部から崩れていくことになる。逆に言えば、確率を下げない方法は「現実を見続けられる状態を保つこと」に集約される。

判断する立場として

前の記事では「IT担当者は会社の生き方を読み取り、それに合うITを選ぶ」と書いた。それは変わらない。

ただ、「生き方」に影響を与えるかもしれない大きな判断に関わる場面があるなら、「正解があるはず」という前提で臨むより、「これは賭けで、修正できる」というスタンスで臨む方が、決めた後の動きが変わると思っている。

経営学もビジネス書も、道具として使う分には価値がある。ただ、「答え」として使った瞬間に現実を見る回路を止める力になる。フレームワークは判断を整理する道具だが、判断の代わりにはならない。


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