棚卸ししても判断に使えない
受注生産の中小製造業でも、在庫の問題は起きる。受注生産だから在庫は少ないはず——理屈ではそうだが、現場を見ると材料棚には端材が積み上がり、加工途中の仕掛品が棚に並び、出荷待ちの製品が通路を塞いでいることは珍しくない。
毎月棚卸しをやる。数を数えて、金額を出して、帳簿と突き合わせる。そこで「在庫金額1,200万円」という数字が出る。
しかし、この数字を見て何か判断できるかというと、できないことが多い。1,200万円は多いのか少ないのか。去年より増えたのか減ったのか。増えたとして、それは問題なのか正常なのか。棚卸しの数字だけでは、そこまでわからない。
以前の記事で「データは単体では意味がない」と書いた。在庫金額もまさにそうで、総額だけ見ていても判断の材料にならない。しかし在庫の場合、原価と並べる前にやるべきことがある。 在庫そのものを「分けて見る」 ことになる。
フロー在庫とストック在庫
受注生産の在庫を見るとき、最も有効な切り口は 「フロー」と「ストック」 の区別になる。
フロー在庫は、特定の受注に紐づいて生産の流れの中を動いているもの。注文Aのために買った材料、注文Bの加工途中の部品、注文Cの完成品で出荷待ちのもの。これらはすべて行き先が決まっている。受注番号で追える。いずれ出荷されて売上になり、キャッシュとして回収される。
ストック在庫は、特定の受注に紐づいていないもの。どの注文にも割り当てられていない材料、キャンセルで浮いた仕掛品、行き先のない完成品。これらは帳簿上は資産だが、出荷の見込みが立っていない。キャッシュが寝ている状態になる。
受注生産では、本来ほとんどの在庫がフローであるべきになる。注文が入り、材料を手配し、加工して、出荷する。この流れの中にある在庫は「動いている在庫」であって、管理上の心配は少ない。
問題はストック在庫になる。そして厄介なのは、フロー在庫とストック在庫が区別されないまま「在庫1,200万円」と合算されていることにある。
素材:ストックの最大の発生源
受注生産であっても、材料はロットで買わざるを得ないことが多い。鋼材は定尺で入荷する。ネジやボルトは箱単位。塗料は缶単位。注文に必要な量だけピッタリ買えることはまずない。
たとえば、ある注文でSUS304の板材が必要になる。定尺1000mm×2000mmで入荷して、必要な分を切り出す。残りの端材は棚に戻す。次の注文でも同じ材種が必要になるかもしれないし、ならないかもしれない。
この端材は、入荷した時点ではフロー在庫だった。注文Aのために買ったものだから行き先がある。しかし切り出した瞬間、残りはストック在庫に変わる。行き先が決まっていない。次に使える注文が来るまで、材料棚で眠ることになる。
この「フローからストックへの転換」が、受注生産の素材在庫で日常的に起きている。定尺材を買うたびに端材が発生し、少しずつストックが積み上がる。
管理上の問題は、この端材が把握されているかどうかになる。端材の材種・サイズ・量がわかっていれば、次の注文で新品を買う前に「使える端材がないか」を確認できる。把握されていなければ、使える端材があるのに毎回新品を買い、端材はさらに溜まっていく。
もう一つ、素材で厄介なのが 紐づきで買った小さな部品 になる。
大きな材料は目に見える。鋼材が棚に積まれていれば誰でも気づく。しかし小さな部品——特殊なボルト、Oリング、電子部品——は棚の奥に紛れたり、別の注文の部品と混ざったりして、物理的に見つからなくなることがある。
ネジやボルトのような汎用品を発注点方式で管理しているなら問題は少ない。在庫が減ったら補充する、意図的なストックだから管理もシンプルになる。しかし、特定の注文向けに紐づきで買った小物部品は事情が違う。
注文Aのために買った特殊部品が、入荷後に現場で見つからなくなる。組み立て担当が探しても出てこない。納期が迫っているから、もう1個発注する。数日後、最初の部品が別の棚から出てくる。同じ部品が2個になる。片方はフローとして使われ、もう片方は行き先のないストックになる。
この「見つからないから再発注」のパターンは、1回あたりの金額は小さい。しかし繰り返されると積み上がる。しかも小さいから棚卸しでも見落とされやすい。気づいたときには、使い道のない特殊部品が引き出しの中に散在している。
定尺材のストック化が「ロット買いの構造」から来るのに対して、小物部品のストック化は 「物理的に見えない」 という現場の問題から来る。原因が違うから、対策も違う。端材は台帳で管理すればいいが、小物部品は保管場所のルール——注文番号ごとに箱を分ける、入荷したらすぐ所定の場所に置く——という物理的な整理が先になる。
それでも紐づき小物の滞留は完全には防げないことが多い。月次の棚卸しでも小さな部品は見落とされやすいから、問題が大きい品目については別途手を打つ必要がある。たとえば再発注が頻繁に起きている品目だけ抜き出してリスト化し、棚卸しとは別に現物を確認する。全品目に手間をかける必要はない。「ストック化しやすい品目」に絞って注意を向けるだけでも、積み上がりを早い段階で把握できる。
仕掛品:止まったフローに注意する
受注生産の仕掛品は、基本的にフロー在庫になる。注文Aの部品を加工している途中、注文Bのユニットを組み立てている途中——いずれも受注番号に紐づいていて、行き先が決まっている。
以前の記事で、生産管理ではバッファ在庫を置いて前後工程を分断するポイントスケジューリングが有効だと書いた。このバッファとして意図的に置いている仕掛品も、最終的には出荷につながるフロー在庫になる。
→ 受注生産・多品種少量の中小製造業に「全工程スケジューリング」は要らない
仕掛品で問題になるのは、 「止まったフロー」 になる。
注文がキャンセルされた。しかし加工途中の部品はラインに残っている。品質問題が出て、手直しするか廃棄するか判断が保留になっている。必要な部品が入荷せず、組み立て途中のまま棚に置かれている。
これらはもともとフロー在庫だったが、何らかの理由で流れが止まり、実質的にストック在庫になっている。そして「止まったフロー」は見つけにくい。もともと受注番号が紐づいているから、台帳上はフロー在庫のまま残っていることが多い。受注番号があるから「まだ動いている」ように見えるが、実際には動いていない。
仕掛品のストック化は、在庫管理の問題というより生産管理の問題になる。しかし「この仕掛品は動いているのか止まっているのか」を把握すること自体は、フロー/ストックの区別で見えてくる。
完成品:受注生産なら本来ゼロに近い
受注生産の完成品在庫は、本来ほとんど存在しないはずになる。作ったらすぐ出荷する。それが受注生産の基本的な流れになる。
完成品が倉庫にある場合、ほとんどは 「出荷待ち」 になる。顧客の検収待ち、他の注文と合わせて一括出荷する待ち、輸送手配の待ち。これらはまだフロー在庫で、出荷日が決まっているなら管理上の問題は小さい。
完成品がストック在庫になるケースは限られているが、起きると影響が大きい。
- 注文がキャンセルされたが、完成品がすでに仕上がっている
- 検収で不合格になり、手直しするか再製作するか保留になっている
- 見込みで作った製品(営業の「たぶん受注できる」で先行生産したもの)が売れていない
完成品のストック化は、素材や仕掛品と違って金額が大きくなりやすい。材料費に加えて加工費も乗っているから、1件でも滞留すると在庫金額へのインパクトが大きい。
逆に言えば、完成品のストック在庫が発生していたら、それは在庫管理の問題ではなく、受注プロセスや営業との連携の問題になる。
分けて見ると、同じ数字でも意味が変わる
フローとストックを分けると、棚卸しの数字の見え方が変わる。
| 会社A | 会社B | |
|---|---|---|
| 在庫金額(合計) | 1,200万円 | 1,200万円 |
| うちフロー在庫 | 1,000万円(83%) | 600万円(50%) |
| うちストック在庫 | 200万円(17%) | 600万円(50%) |
合計は同じ1,200万円だが、中身はまったく違う。
会社Aは在庫の大半が受注に紐づいている。出荷すればキャッシュに変わる。在庫金額としては問題ない。
会社Bは在庫の半分が行き先のないストックになっている。600万円が倉庫に眠ったまま、出荷の見込みが立っていない。合計の1,200万円という数字だけ見ていたら、この違いに気づけない。
以前の記事で「見える化の本質は基準と実績の突合」だと書いた。在庫管理でいえば、フロー在庫の「基準」は受注に対して必要な量であり、それと実際の手持ちを突き合わせることになる。ストック在庫にはそもそも基準がない。基準がないものは突合のしようがないから、まず「基準のない在庫がどれだけあるか」を把握すること自体が最初のステップになる。
まず「分ける」ところから始める
フロー/ストックの区別は、高度なシステムがなくてもできる。
棚卸しのときに、各品目に対して「これはどの注文向けか」を確認する。受注番号が紐づけば(あるいは紐づくことが明らかであれば)フロー。紐づかなければストック。これだけになる。
以前の記事で、仕入管理は受注番号を軸にした紐づけで成り立っていると書いた。在庫の分類も同じ軸が使える。受注番号がついているかどうか。ついていないものがストック在庫として溜まっていないか。
→ 中小製造業の仕入管理は「今のやり方」から始める ── 受注番号を軸にした紐づけの実践
最初は棚卸しの際に「フロー/ストック」の列を1つ追加するだけでいい。全品目を完璧に分類する必要はない。金額の大きいものから見ていけば、ストック在庫がどこに集中しているかは見えてくる。
受注生産の在庫管理で大事なのは、正確な数を数えることではない。 在庫の中身を分けて見ること になる。フローなら流れに任せればいい。ストックなら「なぜ止まっているのか」「使える見込みがあるのか」を判断する必要がある。「在庫1,200万円」を「フロー1,000万円+ストック200万円」に分解する。それだけで、次に何をすべきかが見えてくる。
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