中小製造業の見える化は「基準と実績の突合」── 数字は比較して初めて意味を持つ

「見える化」の中身が曖昧なまま進んでいないか

内製DXの文脈で「見える化」という言葉はよく出てくる。原価を見える化する、納期を見える化する、在庫を見える化する。方向としては正しい。しかし「見える化」の中身が曖昧なまま進むと、数字は出たが使われない、という結果になりやすい。

売上が3,000万円。原価率が78%。在庫金額が450万円。これらの数字を出すこと自体は、会計ソフトやExcelがあればできる。しかし、この数字を見て「だから何をすべきか」がわかるかというと、わからないことが多い。

以前の記事で「データは単体では意味がない」と書いた。あの記事では在庫と原価の組み合わせを取り上げたが、今回はもう少し根本的な話をする。見える化の本質は、数字を出すことではなく、比較できる状態を作ることになる。

数字は1つでは改善につながらない

原価率が78%。この数字だけを見て、改善すべきかどうか判断できるだろうか。

見積もりのとき想定していた原価率が75%だったとわかれば、「3%のズレがある、なぜか」という問いが生まれる。材料費が想定より高かったのか、工数がかかりすぎたのか、不良が多かったのか。ズレの原因を調べる過程で、改善ポイントが見えてくる。

あるいは、予定納期が3月15日だった案件が、実際には3月22日に出荷されていた。7日のズレがある。どの工程で遅れたのか。なぜ遅れたのか。この問いは、予定と実績の両方がデータとして残っていて初めて成り立つ。

つまり、改善とは「ズレを見つけて直すこと」 になる。ズレを見つけるには、比較する2つの数字が必要になる。基準と実績。想定と実態。この2つが揃って初めて、「見える化」が改善につながる。

基準はすでに業務の中にある

では「基準」は誰がどうやって作るのか。ここで多くの会社がつまずく。KPIを設定しなければ、目標を定義しなければ、と考え始めると、それだけで手が止まる。

しかし、実は基準はすでに業務の中に存在していることが多い。

  • 見積もり → 原価の基準。見積もりとは「この仕事はこれくらいのコストでできるはず」という想定そのもの
  • 納期回答 → 納期の基準。「いつまでに届けます」と約束した日付がそのまま基準になる
  • 発注数 → 入荷の基準。「100個発注した」なら「100個届くはず」が基準
  • 図面の指示値 → 品質の基準。「公差±0.1mm」がそのまま合否の基準

これらは経営者が新たに設定したKPIではない。日々の業務の中で自然に生まれている数字になる。見積もりは営業や生産管理が作っている。納期は顧客と約束している。発注は購買が出している。基準は最初から存在している。

問題は、この基準がデータとして残っていないことにある。

基準と実績がつながっていない

見積もりはExcelで作っているが、実績原価は会計ソフトにある。この2つを突合しようとしても、見積番号と会計データがつながっていない。手作業で1件ずつ照合するしかない。現実にはそんな手間はかけられないから、突合されないまま放置される。

納期回答は営業が口頭やメールで伝えているが、出荷日は別のシートに記録されている。予定と実績を並べて見る仕組みがない。「最近、納期遅れが多い気がする」という感覚はあっても、どれくらい遅れているのか、どの工程で遅れているのかは見えない。

発注は仕入先にFAXやメールで出しているが、入荷の記録は紙の受入伝票に書いている。発注と入荷を突合して「未入荷リスト」を出す仕組みがない。入荷漏れに気づくのは、現場から「材料がない」と言われたとき。

どのケースでも、基準のデータと実績のデータは社内のどこかに存在している。しかし、それぞれ別の場所に、別の形式で、別の人が管理している。突合できる形でつながっていない。 これが中小製造業の「見えていない」状態の正体になる。

内製DXの仕事は「測れるようにすること」

ここまでの話を整理すると、内製DXの担当者がやるべきことが見えてくる。

基準を作ることではない。基準と実績を突合できる仕組みを作ること。

基準——見積もりの想定原価、約束した納期、発注した数量——は、経営者や現場が業務の中で決めている。内製DXの担当者の仕事は、その基準と実績を同じキーでつなげて、ズレが見える状態にすること。

以前の記事で「受注生産のデータは見積番号から始める」と書いた。見積番号を起点にすれば、見積もり→受注→発注→製造→出荷→請求まで、一連のデータを1本の線でつなげられる。このつなげ方の設計が、内製DXの核になる。

あるいは、以前の記事で「ExcelのデータはいつでもDBに移せる形で持つ」と書いた。あの「データの文法」も、突合のための下準備になる。同じ品番で引けるようにする、日付の書式を揃える、1行1レコードにする。これらは基準と実績を突合するための前提条件になる。

自分のプロフィールで「今ある商売の中からデータを見えるようにし、課題を見つけて改善する」と書いた。この「見えるようにする」の具体的な中身が、基準と実績の突合になる。

ズレが見えれば改善は自然に動く

基準と実績のズレが見えるようになると、改善は意外と自然に動き始める。

「見積もりより実績が20%高い案件が、先月5件あった」——この事実が見えれば、経営者は「なぜか」を知りたくなる。5件に共通するパターンがあるかもしれない。特定の工程で想定以上に時間がかかっているかもしれない。材料の歩留まりが悪いのかもしれない。

ズレの原因を調べる過程で、改善すべきポイントが具体的に見えてくる。「コストを下げろ」という漠然とした指示ではなく、「この工程の想定時間と実績のズレを縮めるにはどうするか」という具体的な問いになる。

以前の記事で紹介した、コスト低減も納期短縮も、具体的にやることはこの「ズレの可視化と是正」に帰着する。コストを下げるとは、見積もりと実績のズレを縮めること。納期を短縮するとは、予定と実績のズレをなくすこと。抽象的な目標が、ズレという形で具体化される。

まず1つの突合から始める

基準と実績の突合が大事だとして、どこから始めればいいか。

全部を一度にやろうとする必要はない。まずは1つ、最も身近で効果が出やすいところから始める。

多くの中小製造業にとって、最も始めやすいのは 見積もりと実績原価の突合 だと思っている。理由は2つ。まず、見積もりは必ず作っているので基準側のデータが存在する。次に、原価のズレは利益に直結するので経営者の関心が高い。

以前の記事で「管理精度の天井は経営者の判断力で決まる」と書いた。経営者が「知りたい」と思う情報から始めるのが定着の近道になる。見積もりと実績のズレは、ほぼすべての経営者が知りたい情報だろう。

完璧な精度は要らない。70点でいい。大まかにでも「この案件は見積もりより高くついた」「この案件は想定内で収まった」がわかれば、改善の起点としては十分になる。


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