内製DXの弱点を正直に書く ── 小さなツールの組み合わせで起きること

このシリーズで推してきたアプローチ

このシリーズでは一貫して、中小製造業の内製DXは「小さなツールの組み合わせ」で進めるべきだと書いてきた。Excel VBAで十分な領域はVBAで作る。必要なところだけデータベースや専用言語を使う。大きなパッケージを一括導入するのではなく、業務に合わせて小さな仕組みを少しずつ積み上げる。

この考え方は変わっていないし、中小製造業の体力や現場のリアルを考えれば、今でも最も現実的なアプローチだと思っている。

ただ、このやり方には弱点がある。そこを書かずにいるのはフェアではないので、正直に書いておく。

弱点:ツールとツールの「つなぎ目」で漏れる

小さなツールを組み合わせるということは、ツール間のデータの受け渡しが人の手で行われるということ。

たとえば、Excelの見積データから受注情報を別のシートに転記する。発注データを仕入管理のファイルに手で移す。検査結果をまた別のところに入力する。一つひとつのツールは業務にフィットしていても、ツール間の橋渡しは手作業になる。

この「つなぎ目」で何が起きるか。

転記漏れ。 あるツールに入力したデータを、次のツールに移し忘れる。受注したのに発注していない、発注したのに入荷を登録していない——こうした漏れは、つなぎ目が手作業である限り必ず発生する。

入力ミス。 数値の桁間違い、品番の打ち間違い。コピー&ペーストでも貼り先を間違えることがある。

タイミングのずれ。 あるツールではデータが更新されているが、別のツールにはまだ反映されていない。どちらが最新かわからなくなる。

もちろん、対策はある程度できる。コピー&ペーストで転記の手間を減らす、入力をマスタからの選択式にする、数値の範囲チェックを入れる。こうした工夫で頻度は下がる。しかし、つなぎ目が手作業である以上、ゼロにはならない。対策はできるが、構造的な弱点は残る。

統合システムならこの問題は起きにくい

ここは正直に認めるべきところで、統合された生産管理システムやERPには、この弱点がない。

統合システムでは、受注データを一度登録すれば、そこから発注、製造指示、出荷、請求まで一つのシステムの中でデータが流れる。ツール間の橋渡しが存在しないから、転記漏れも入力ミスも構造的に起きにくい。「受注したのに発注していない」はシステムがアラートで教えてくれる。

さらに、データが一箇所にあるから、工程の進捗も在庫も原価もリアルタイムで見える。小さなツールの組み合わせでは「あのファイルを開いて、あのシートを見て」となるところが、統合システムなら画面一つで済む。

それでも統合システムを勧めない理由

統合システムの利点は認めた上で、中小製造業に統合システムを勧めない理由は以前の記事で書いた通り。

業務がシステムの型に合わない。 受注生産・多品種少量の業務は標準化しにくい。パッケージの想定する業務フローと実際のフローが合わず、カスタマイズが膨らむか、業務をシステムに合わせることになる。

導入・維持コストが体力に合わない。 数十人規模の会社で数千万円の投資は現実的ではない。仮に導入できても、保守費用やバージョンアップのコストが続く。

変更に弱い。 業務が変わったときにシステムを改修するのに時間とコストがかかる。小さなツールなら翌日には直せる変更が、統合システムでは数週間〜数ヶ月かかることがある。

つまり、統合システムは「つなぎ目の問題」を解決する代わりに、「柔軟性の問題」を抱えている。どちらも弱点がある。どちらの弱点のほうが致命的かは、会社の規模と業務の性質で決まる。

ケアレスミスはシステムでは防ぎきれない

もう一つ、さらに根本的な話がある。

入力し忘れる、数字を見間違える、コピー先を間違える——こうしたケアレスミスは、どんなシステムを使っても完全にはなくならない。統合システムでも、最初のデータ入力が間違っていれば、そこから先は全部間違ったまま流れる。

小さなツールの組み合わせでは、つなぎ目が多い分だけケアレスミスの機会が増える。これは事実。しかし、統合システムでもミスは起きる。システムが変わっても人は変わらない。

現実的な対策は、ミスを防ぐ仕組みよりも、ミスに気づく仕組みを作ることになる。

  • 入力されていないデータを定期的に洗い出す(未発注リスト、未入荷リストなど)
  • 異常値を検出する(通常の発注量と大きく異なる、単価がゼロなど)
  • 工程の節目でデータの突合を行う

これは統合システムだろうと小さなツールだろうと、同じように必要な仕組みになる。以前の記事で「セキュリティは守り方より戻し方」と書いたが、データ品質も同じで、入力ミスは起きる前提で、早く検知して直す仕組みのほうが効果的

弱点を知った上で選ぶ

このシリーズで推してきた「小さなツールの組み合わせ」は、つなぎ目で漏れるという構造的な弱点を持っている。統合システムにはこの弱点がない代わりに、柔軟性とコストの問題がある。

どちらを選ぶかは、弱点を知った上で判断すべき話になる。中小製造業——特に数十人規模の受注生産の現場——にとっては、つなぎ目の漏れを運用でカバーするほうが、統合システムの硬直性に苦しむよりも現実的だと、自分は考えている。

ただし、「小さなツールなら何も問題ない」とは言わない。つなぎ目が増えれば漏れも増える。だからこそ、以前の記事で「作る前にやめるを考える」と書いた。ツールの数が増えるほどつなぎ目が増える。不要なツールを減らすことは、つなぎ目の漏れを減らすことでもある。

弱点のないアプローチは存在しない。弱点を知って、それをカバーする運用を組みながら進める。これが内製DXの現実的なやり方になる。


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