中小製造業の内製DXと外注の線引き ──「自社固有」か「汎用」かで決める

小回りのきく業者は中小製造業の味方

中小製造業にとって、大手SIerやコンサルティング会社は現実的な選択肢になりにくい。予算規模が合わない上に、パッケージ化された提案は受注生産・多品種少量の現場にそのまま当てはまらないことが多い。

自分の経験でも、中小の現場でうまくいっているのは、小規模で小回りのきく業者との付き合いだった。いわゆる「御用聞き」タイプの業者で、こちらの事情を理解した上で、必要なときに必要なだけ対応してくれる。大手のような提案書もプレゼンもないが、電話一本で動いてくれる。このスピード感は中小にとって大きな価値がある。

ただし、この「何でもやってくれる便利さ」には落とし穴がある。

任せることと、丸投げすることは違う

同じ「業者に頼む」でも、中身が大きく異なる2つのパターンがある。

一つは、自分たちで内容を理解した上で任せているケース。何が必要で、何をやってもらっていて、結果がどうなるべきかを把握している。もう一つは、よくわからないから全部お願いしているケース。何をやっているか、なぜそうしているかが見えていない。

外から見ると同じ「外注」だが、業者との力関係がまったく違う。前者は対等なパートナーとして付き合える。後者は、言い値になりやすく、提案の良し悪しも判断できない。業者が悪いわけではなく、こちらに判断基準がないことが問題になる。

全部を理解する必要はない

では、丸投げにならないために全部を自分たちで理解すべきかというと、そうではない。

たとえばネットワークやサーバーのインフラ。自分のところでもインフラは業者に完全に任せている。ネットワーク構成を深く理解しても、それが自社の競争力に直結するわけではない。インフラの知識は汎用的なもので、製造業だろうとサービス業だろうと基本は同じ。ここはプロに任せた方が効率がいい。

PCなどの機器も同じ考え方で整理できる。社内にトラブル対応できる人がいれば、購入して自分たちで管理する方がトータルコストは安い。対応力がなければ、リースやレンタルでサポート込みの契約にした方が安全になる。汎用品の調達方法は、社内の対応力に合わせて選べばいい。

一方、自社の見積もりの構造、工程の流れ、原価の考え方、データの持ち方。これらは自社固有の知識で、外の人間がどれだけ優秀でも、本質的には社内の人間にしかわからない。

線引きの基準は「自社固有かどうか」になる。 汎用的な領域は業者に任せていい。自社固有の領域は、自分たちで理解していなければならない。

自社固有の領域を外注するとき何が起きるか

問題が起きるのは、自社固有の領域をよく理解しないまま外注するケースになる。

よくあるのが、業務システムの開発を業者に丸投げするパターン。「うちの業務に合ったシステムを作ってほしい」と依頼するが、「うちの業務」を仕様として言語化できていない。業者は聞き取りをして要件をまとめてくれるが、業務の本質的な部分はこちらにしかわからない以上、ズレが生じやすい。

以前の記事で「手作業でできることしかシステムにできない」と書いた。同じ構造がここにもある。自分たちで理解できていないことは、正しく外注もできない。 業者に説明できないということは、要件が固まっていないということであり、出来上がったものが期待と違っても、どこがズレているのかすら指摘しにくい。

結果として「業者が作ったシステムを、業者にしか直せない」という依存関係が生まれる。これはベンダーロックインの問題だが、技術的なロックインよりも、知識のロックインの方が根が深い。 技術は乗り換えられるが、自社業務の理解を外に持っていかれると、取り戻すのが難しくなる。

関係は人につく──担当者が変わるリスク

もう一つ、見落としがちなリスクがある。業者との関係が特定の担当者に依存しているケースになる。

自分が見た例では、ある業者がまるで社員のように社内の事情を把握してくれていた。システムの経緯も、現場の癖も、過去のトラブルも全部わかっている。非常にうまく回っていた。しかし、こちらの担当者が異動で変わったことで、この関係が崩れてしまった。新しい担当者は業者との経緯を把握しておらず、業者側も「前の担当者とはこうやっていた」という暗黙の前提が通じなくなった。結果、どちらもどうしていいかわからない状態に陥った。

これは業者の問題ではなく、関係性が特定の人と人の間にしか存在していなかったことが原因になる。業者とのやり取りの内容、判断の経緯、依頼の背景。これらが担当者の頭の中だけにあると、人が変わった瞬間にすべてが失われる。

このシリーズで繰り返し書いてきた「暗黙知をデータにする」という話は、社内の業務だけでなく、業者との関係にも当てはまる。何を頼んでいるか、なぜそうしているか、過去にどんな判断をしたか。最低限の記録があるだけで、担当者が変わっても関係を引き継げる。

内製DXが業者との関係を変える

このシリーズで書いてきた内製DXは、自社固有の領域を自分たちで扱えるようにするという話でもある。

データの持ち方を自分たちで設計する。業務フローを自分たちで整理する。見積もりから受注、製造、実績までのデータの流れを自分たちで構築する。これらは自社固有の知識であり、外注しにくい部分だからこそ、内製する意味がある。

逆に、内製DXが進むと業者との付き合い方が変わってくる。「何をやってほしいか」を明確に伝えられるようになるので、業者は本来の強みである技術力とスピードを発揮しやすくなる。こちらも「何をいくらで頼んでいるか」が見えるので、コスト感覚が持てる。

つまり、内製力が上がるほど、業者との関係が依存から協業に変わる。内製とは、全部を自分でやることではなく、自社固有の部分を自分で理解・管理できる状態のこと。 その上で、汎用的な領域や専門的な技術は業者に任せる。この使い分けが中小製造業にとって現実的な形になる。

まとめ:理解の有無が外注の質を決める

業者との付き合いで大事なのは、良い業者を見つけること以上に、自分たちが何を理解していて、何を理解していないかを把握することになる。

  • 汎用領域(インフラ、ネットワーク、ハードウェア)→ 信頼できる業者に任せる。ここは御用聞きタイプの業者が力を発揮する
  • 自社固有領域(業務ロジック、データ設計、業務フロー)→ 自分たちで理解を持つ。ここを外に出すなら、少なくとも仕様を自分たちで書ける状態にする

小回りのきく業者は中小製造業にとって貴重なパートナーになる。ただし、そのパートナーシップが機能するのは、こちらが自社の業務を理解している場合に限る。理解がなければ、パートナーではなく依存先になってしまう。

内製DXで自社固有の領域を固めつつ、汎用的な部分は信頼できる業者と組む。この組み合わせが、中小製造業の体力に合った現実的なやり方だと考えている。


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