手作業でできることしかシステムにできない ── 中小製造業の内製DXの正しい順番

システム化から始めたがる問題

内製DXの相談で多いのが、「この業務をシステム化したい」という話から始まるケースになる。気持ちはわかるが、ここにはよくある落とし穴がある。

「システム化したい」が先に来ると、ツール選定や技術検討から始まってしまう。どの言語で作るか、Excelで済むかデータベースが要るか、クラウドか社内サーバーか。しかし、その業務のロジックがそもそも明確でなければ、どんな道具を選んでも作れない。

システムとは、人間がやっていることを機械に置き換えるものになる。置き換えるためには、何をどういう順番で、どういう条件で判断しているかが明確でなければならない。つまり手作業でできていないことは、システムにもできない

手作業でできない=ロジックがわかっていない

「手作業ではやっているが、大変だからシステム化したい」——これは正しい。手作業で回せている業務のシステム化は、ロジックが明確になっているから設計できる。

問題は、「手作業ではうまく回っていないが、システムを入れれば解決するはず」というケースになる。これは高い確率で失敗する。

手作業でうまく回っていないということは、以下のどれかが起きている。

  • 業務の手順が定まっていない。 人によってやり方が違い、統一されたルールがない
  • 判断基準が曖昧。 「ベテランの勘」で処理されていて、条件分岐を言語化できない
  • そもそもその業務の目的が不明確。 何を達成するための業務なのかが曖昧

こうした状態でシステムを作ろうとすると、要件定義の段階で行き詰まる。「この場合はどうしますか?」という質問に誰も答えられない。仕様が固まらないまま作り始めると、出来上がったものは「誰の業務にも合わない」ツールになる。

手作業で回すことはロジックの検証になる

システム化の前に手作業で回すことを勧めると、「それでは効率が悪い」と言われることがある。しかし、手作業で回すことの目的は効率化ではなく、ロジックの検証になる。

手作業で業務を1回通してみると、以下のことがわかる。

  • 実際に必要なデータは何か。 想定していたデータの半分は使わず、想定していなかったデータが必要になることは珍しくない
  • 判断の分岐点はどこか。 「Aの場合はこう、Bの場合はこう」というロジックが、手を動かして初めて明確になる
  • 例外処理は何か。 正常系だけなら簡単だが、現実には例外が山ほどある。手作業で回すと例外パターンが見えてくる

これらはヒアリングだけでは見えにくい。以前の記事で現場と話す時間の重要性を書いたが、話を聞くだけでは「普段どうやっていますか」の回答は正常系に偏りがちになる。自分で手を動かすか、現場に隣で見させてもらうかして、実際の業務を一通り体験すると、聞いていた話と実態の差に気づくことが多い。

手作業で回すと「やめるべき業務」も見える

手作業で業務を通してみると、ロジックの検証だけでなく、そもそも不要な手順が見えてくることがある。

以前の記事で、システム化の前に「やめる」を考える廃止型のDXについて書いた。しかし、やめるべき業務を見つけるのは簡単ではない。依頼として「これは不要です」とは上がってこないし、長年続いている業務は存在自体が当たり前になっている。

手作業で一通り回してみると、「この手順、何のためにやっているんだろう」という疑問が自然に出てくる。頭で考えているだけでは気づかなかった無駄が、手を動かすと見える。

あるいは、手作業で回した結果「これは手作業のままで十分に回る」とわかることもある。月に数回しか発生しない業務をシステム化するより、手作業のままにしておくほうが合理的な場合は少なくない。システム化の判断自体が、手作業で回してみて初めて正確にできる。

内製DXの正しい順番

ここまでの話を整理すると、内製DXには正しい順番がある。

多くの会社がやりがちな順番:

  1. 「この業務をシステム化したい」と決める
  2. ツールや技術を選ぶ
  3. 作り始める
  4. 要件が固まらず迷走する、または作ったが使われない

うまくいく順番:

  1. まず手作業で業務を回してみる(ロジックの検証)
  2. 不要な手順があれば廃止する(廃止型DX)
  3. 残った手順を整理して、使う人と話しながら設計する
  4. 手作業で検証済みのロジックをシステムに落とし込む

1が抜けると、ロジックが不明確なまま設計に入ることになる。2が抜けると、不要な業務をシステム化してしまう。3が抜けると、使われないツールができる。

このシリーズで書いてきたことは、すべてこの順番の中に位置づけられる。データの持ち方を正す(1の中で見えてくる)、やめる業務を見つける(2)、現場と話す(3)、ツールを作る(4)。どれも順番を飛ばすと効果が出ない。

手作業を「遠回り」と思わないこと

手作業で回す時間を「無駄」や「遠回り」と感じる気持ちはわかる。DX担当者としては早くツールを作りたいし、経営者からも「いつできるのか」と聞かれる。

しかし、ロジックが検証されていない状態で作り始めると、手戻りのコストのほうがはるかに大きくなる。作り直し、仕様変更、使われないまま放置——これらの時間とコストに比べれば、手作業で1〜2週間回してみることは安い投資になる。

手作業でできることしかシステムにできない。逆に言えば、手作業でできるようになったものは、確実にシステム化できる。この順番を守るだけで、内製DXの成功率は大きく変わる。


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