マニュアルを作っても守られない
業務プロセスを整理したとき、多くの会社がやるのはマニュアルの作成。手順書を作って共有フォルダに置き、「これに従って作業してください」と通達する。
しかし現実には、マニュアルは作った直後しか読まれない。半年もすれば存在自体が忘れられ、以前の自己流に戻る。更新も止まり、実態とずれたまま残り続ける。ISOの審査前に慌てて直す——という光景は珍しくない。
以前の記事で「手作業でできることしかシステムにできない」と書いた。手作業でプロセスを検証し、ロジックを明確にする。ここまでは正しい。しかしその次のステップ——整理したプロセスをどうやって組織に定着させるか——については十分に書いていなかった。
マニュアルは「読めばわかる」が前提で、読むかどうかは本人任せ。だから守られない。プロセスを定着させるには、本人任せにしない仕組みが要る。
ワークフローは「型」になる
ワークフローソフトにプロセスを載せると、ステップを飛ばせなくなる。
たとえば、顧客からのクレーム対応。「受付→原因調査→対策立案→対策実施→報告」という流れがあるとして、マニュアルに書いてあるだけなら「原因調査」を飛ばしていきなり「とりあえず交換します」で済ませる人が出てくる。ワークフローに載せれば、原因調査のステップを完了しない限り次に進めない。
これがワークフローの本質的な価値で、承認ルーティングではなく 「プロセスの型を強制する道具」 として機能する。
承認申請だけがワークフローではない
ワークフローと聞くと、有給休暇の申請や稟議書の承認を思い浮かべる人が多い。確かにそれもワークフローだが、本来の適用範囲はもっと広い。
たとえば図面の承認フロー。設計→チェック→承認というプロセスをワークフローに載せれば、未チェックの図面が現場に流れることを防げる。注文の承認も同じで、金額や取引先の条件に応じて承認ルートを分岐させれば、権限を超えた発注を防止できる。
入社時の手続きにも使える。「PCの手配→アカウント発行→安全教育→OJT担当の割り当て」といった一連のタスクをワークフローに載せれば、「あの手続きが漏れていた」という事故が減る。人の入れ替わりが多い職場ほど効果が大きい。
ポイントは、ワークフローを「申請と承認の道具」ではなく 「業務プロセスを型にする道具」 として見ること。有給申請のような総務系の定型処理だけでなく、製造業の本業——図面管理、受発注、品質管理——の業務フローに組み込んで初めて、本来の力を発揮する。
なぜ中小製造業でも必要になってきたか
「うちは少人数だから、口頭で十分」——そう思っている会社は多い。実際、社員20〜30人の会社では、顔が見える距離で仕事をしているから、なあなあでも回ってきた。
しかし最近、外部から型を求められる場面が増えている。
顧客の要求水準が上がっている。 大手の取引先からISO認証を求められたり、品質管理体制の監査を受けたりする場面が増えた。「やっています」だけでは通らず、プロセスが文書化され、記録が残り、逸脱があれば検知できることを示す必要がある。
属人化のリスクが顕在化している。 ベテランの退職や急な欠勤で、「あの人しかやり方を知らない」業務が止まる。以前の記事で属人化のトリアージについて書いたが、トリアージの結果「これは標準化すべき」と判断した業務を、どうやって標準化するかの手段が要る。
人の入れ替わりが増えている。 中小製造業でも中途採用や派遣スタッフが増えた。新しい人にプロセスを教えるとき、マニュアルを渡して「読んでおいて」では不安が残る。ワークフローがあれば、システムが次のステップを案内してくれる。
全部載せる必要はない
ここで「では全業務をワークフロー化しましょう」となるのは危険。以前の記事で「作る前にやめるを考える」と書いたが、ワークフロー化にも同じ原則が当てはまる。
ワークフローに載せるべき業務:
- 記録が求められる業務。 ISO、顧客監査、法規制で「誰が、いつ、何を判断したか」を残す必要があるもの。クレーム対応、品質逸脱、設計変更など
- ステップの飛ばしがリスクになる業務。 検査工程を飛ばして出荷する、承認なしに発注する——飛ばすと損害が出るプロセス
- 人の入れ替わりが多い業務。 手順を教える側の負荷が高いもの
ワークフローに載せなくていい業務:
- 判断が速いほうが価値がある業務。 現場での即時判断、日常的な報告、軽微な手配。ワークフローに載せるとステップが増えて遅くなる
- 頻度が低い業務。 年に数回しか発生しないものにワークフローを組むのは、設定コストに見合わない
- 内容が毎回違う業務。 定型化できないものはワークフローの「型」に収まらない
手作業 → ワークフロー → 内製ツールの三段階
以前の記事で整理した「内製DXの正しい順番」にワークフローを位置づけると、こうなる。
第一段階:手作業でプロセスを回す。 ロジックを検証し、不要な手順を見つけて廃止する。ここでプロセスの骨格が固まる。
第二段階:ワークフローでプロセスを型にする。 手作業で回せるようになったプロセスをワークフローソフトに載せる。ステップの飛ばしを防ぎ、記録を自動で残す。プロセスが「個人の習慣」から「組織の仕組み」に変わる。
第三段階:必要に応じて内製ツールで自動化する。 ワークフローで回してみると、「このステップはデータを転記しているだけ」「この判断は数値の閾値で自動化できる」という部分が見えてくる。そこだけをVBAや専用言語で自動化する。
多くの会社は第一段階を飛ばして第三段階に行こうとして失敗する(前回の記事で書いた通り)。しかし第二段階を飛ばして第三段階に行こうとするケースも同じくらい多い。プロセスが定着していない状態で自動化しても、自動化されたプロセスが使われない。
ワークフローソフトの選び方
中小製造業で使うなら、大げさなBPMツールは要らない。選ぶ基準はシンプル。
フローの変更が自分たちでできること。 業務プロセスは変わる。変更のたびに業者に依頼するのでは、変化への追従が遅れる。ノーコードでフローを組み替えられるものを選ぶ。
データのエクスポートができること。 以前の記事で書いた原則と同じで、ワークフローに蓄積された記録データを外部に取り出せることが重要。ワークフローソフトを変えるときに、過去の記録が人質にならないようにする。
過剰な機能を求めないこと。 承認ルート、ステップ管理、記録の保持。中小製造業のワークフローに必要な機能はこの程度。AI連携やBI機能は、あっても使わない。
プロセスを変えたいなら、型を変える
ワークフローの最も実用的なメリットは、プロセスを変更したいときに、ワークフローの定義を変えれば全社に即座に反映されること。
マニュアルだと、文書を更新して配布して「変わりました」と周知して——それでも古いやり方で続ける人がいる。ワークフローなら、フローの定義を変えた瞬間から、全員が新しいプロセスで動くことになる。古いやり方では先に進めないから。
業務プロセスの改善は、変えることよりも定着させることのほうが難しい。マニュアルは定着の道具としては弱い。ワークフローは型として強制力がある。中小製造業でも、記録を求められる業務やステップの飛ばしがリスクになる業務から、ワークフローで型を作っていく価値はある。
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