迷わない判断のほうが多い
DX担当をしていると判断の連続になるが、実はほとんどの判断は迷わない。
コストが明らかに安い方を選ぶ。業務が楽になる方を選ぶ。誰かが困っているなら、それを解決する方を選ぶ。こういう判断は基準がはっきりしているから、悩む必要がない。
PCを導入するときも、自分はHPを選んだ。国内製造で、法人向けオンラインストアがあって、安い。判断基準はそれだけだった。DELLでもLenovoでも結果は変わらなかったと思うが、基準に照らして選べたので迷わなかった。
迷う判断もある
問題は、どちらを選んでも業務が回る場合。
たとえばグループウェアを導入するとき、サイボウズにするかdesknet'sにするか。どちらも必要な機能は揃っている。コストも大きくは変わらない。メリットとデメリットを並べても、決定的な差が見えない。
Google Workspaceを入れるかどうかも似ている。導入すればメールもカレンダーもドキュメントもクラウドに統一できる。一方で、ネット環境への依存が増える。導入しなくても今の運用で回っている。どちらでも成り立つ。
こういう判断は、情報を集めれば集めるほど迷う。両方のメリットが見えてしまうから。
比較表では決まらない
迷ったときにやりがちなのが、機能やコストの比較表を作ること。項目を並べて、価格を並べて、○×をつける。しかしこの手の判断では、比較表を作っても答えが出ないことが多い。
なぜなら、どちらも「あり」だから迷っている。比較表で差がつくなら、そもそも迷っていない。
ビジネスの世界では判断のフレームワークが色々と語られている。コスト削減、ROI、選択と集中——もっともらしく聞こえるが、実際に迷っている場面で使うと、どちらにも説明がつくことが多い。Google Workspaceは「コスト削減になる」とも「新たなコストが増える」とも言える。OSSは「自由度が高い」とも「管理コストがかかる」とも言える。フレームワークは判断を後から説明するには便利だが、迷っている最中の決め手にはなりにくい。
判断基準の「上」にあるもの
以前の記事で、判断に迷ったときの基準について書いた。依存先の分散、変化を求める、コストと時間を削る方向で考える——これらは今も使える基準だと思っている。
→ 中小製造業の内製DX ── 判断に迷ったときの基準を持っておく
ただ、これらの基準を使っても決まらない判断がある。そういうとき、最近意識するようになったのは、 この会社に合っているかどうか という視点になる。
会社にはそれぞれの生き方がある。堅実にものづくりをする会社もあれば、新しいことに積極的に挑戦する会社もある。少数精鋭でやる会社もあれば、人を増やして分業する会社もある。その生き方は経営者が決めるもので、IT担当者が決めるものではない。
しかし、ITの選択はその会社の生き方に合っている必要がある。堅実にものづくりをする会社に、毎月のようにアップデートが入るクラウドサービスを全面導入するのは合わないかもしれない。逆に、変化を好む会社に、変更のたびに時間がかかるオンプレミスの仕組みを入れるのも合わない。
サイボウズかdesknet'sかで迷うなら、自社の雰囲気にどちらが馴染むかで選んでいい。Google Workspaceを入れるかどうかも、うちの会社はクラウドに全面的に寄せていく会社かを考えれば、答えが見えてくることがある。
IT担当者の視座
ここまで読んで、「それは結局好みで選んでいるだけでは」と思うかもしれない。
人間に真面目な人もいれば派手な人もいるように、会社にも個性がある。人の生き方に正解がないのと同じで、会社の生き方にも正解はない。
しかし、会社の生き方は経営者が決めるものであって、IT担当者が好みで決めるものではない。そして会社には今の姿がある。現場のITリテラシー、仕事の性質、人の動き方——それらも含めて「この会社に合うIT」が決まる。経営者の方向性と、今いる人たちの実態。IT担当者はその両方を見て、 会社の生き方を読み取り、それに合うITを選ぶ 役割を担っている。自分の好みで服を選ぶのではなく、相手の体型も好みも見て似合う服を選ぶ仕事に近い。
以前の記事で書いた判断基準——依存先の分散、変化を求める、コストと時間を削る——は、個別の判断に使うツールとして今も有効だと思う。ただ、それらを使う前に、「そもそも自社に合っているか」という視座を持っておくと、判断がブレにくくなる。判断基準は「どう選ぶか」の助けにはなるが、「何に合わせて選ぶか」は教えてくれない。その「何に合わせるか」を埋めるのが、会社の生き方に合わせるという考え方になる。
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