中小製造業のホームページ ── 「作りっぱなし」が正解の場合と、そうでない場合

作りっぱなしになっていることが多い

受注生産・BtoBの中小製造業のHPを見ると、会社概要・製品・ニュースが並んでいて、ニュースが数年前で止まっているケースは珍しくない。Web制作会社に依頼して作ったまま、その後ほぼ手が入っていない状態のまま、というケースも少なくない。

ただ、これを即座に「問題だ」と言い切る前に一度整理してみたい。作りっぱなしが「問題」なのか、それとも「合理的な選択」なのかは、その会社の商売の構造によって変わってくる。

なお、ECを運営している会社やtoC直販の会社は話が別になる。ここで対象にしているのは、受注生産・BtoBが中心の中小製造業になる。

まず「HPで誰かに何かを届ける必要があるか」を問う

設計の起点はシンプルにこの問いになる。そのためには、自分たちの商売の構造を整理する必要がある。

toBかtoCか

受注生産の中小製造業はほぼBtoBになる。届ける相手は一般消費者ではなく、取引先の調達担当者や経営者になる。一般消費者向けのHP運営とは目的が根本から変わってくる。

商圏に物理的な制限があるか

製造業は製品を作る以上、配送や据え付けに物理的な制約が出ることが多い。地域密着で動いている会社が全国に向けて情報発信しても、仕事につながりにくい。商圏が限られているなら、HPで広くリーチしようとしても意味がない。

既存の取引先との関係で商売が回っているか

受注生産の中小製造業の多くは、既存顧客との継続的な取引で成り立っている。新規顧客をHPで獲得する必要がそもそもない会社も少なくない。

届ける相手がいないなら、存在確認の場所として割り切っていい

上記を整理した結果、「HPで新規顧客を獲得する必要はない」「HPを通じて情報を届けるべき相手が来るわけでもない」という結論になる会社は少なくない。

そういう会社にとってHPの主な役割は、会社の存在と連絡先を確認できる場所になる。新規取引先から問い合わせをもらう前に会社概要を確認される、採用に応募してきた人が会社を調べる、名刺を受け取った相手が会社の事業内容を見る——そういった用途になる。

この役割で十分なら、会社概要・事業内容・連絡先が正確に掲載されていれば機能する。ニュースを毎月更新する必要はないし、SEOを意識したコンテンツを作る必要もない。更新が止まっていても、その用途としては十分に機能している。

毎月固定額を払ってニュースを更新し続けているケースをたまに見るが、この役割しか想定していないHPにそのコストをかける必要はない。

届ける必要があるなら、設計が要る

一方、こういう状況なら話が変わってくる。

  • 新規の取引先を開拓したい
  • 採用を強化したい(求人票だけでなく、会社の雰囲気や仕事内容を伝えたい)
  • 自社の技術・製品の認知を広げたい

こうした目的があるなら、HPは「誰に何を届けるか」を設計した上で運営する必要がある。

HPへの導線は基本的に2つしかない。検索リンクになる。

検索からの流入を狙うなら、SEOを意識したコンテンツが要る。どんなキーワードで検索されるかを考えずにニュースを更新しても、検索には引っかからない。「〇〇の技術 中小製造業」「〇〇部品 受注生産」のような、実際に取引先が検索しそうなキーワードを意識してコンテンツを作る必要がある。

リンクからの流入は、求人サイトや業界ポータルサイト、商工会のページなどから発生する。こちらは比較的コントロールしやすい。

運営するなら、自分たちで更新できる環境を整える

「誰に届けるか」が決まり、運営していく方針になったなら、もう一つ重要なことがある。自分たちで更新できる環境を整えることになる。

Web制作会社に更新を依頼し続けるモデルは、コストがかかる上に更新のたびに時間がかかる。記事を1本追加するだけで数万円、という状況では継続的な運営は難しい。

WordPressのようなCMSを使えば、HTMLやCSSの知識がなくても自分たちでコンテンツを追加・修正できる。内製DXの文脈でいえば、HPの運営も「自分たちでコントロールできる状態」にしておく方が、長期的には機動的に動けることになる。

Web制作会社に依頼する段階で「自分たちで更新できる環境にしてほしい」と要件に入れておくか、そもそも自分たちでCMSを立ち上げてしまう判断もある。作ってもらった後から環境を変えるのは手間がかかるので、最初に決めておく方がいい。

「誰に届けるか」が決まってから、ツールを選ぶ

内製DXと同じで、目的が曖昧なまま手段を先に選ぶと失敗することになる。

「WordPressにするかWixにするか」「ブログを書くべきか」「SNSと連携すべきか」という話の前に、「うちの商売でHPを通じて誰かに何かを届ける必要があるか」を先に決める必要がある。

その答えがノーなら、存在確認の場所として割り切ればいい。更新が止まっていることは問題ではない。

イエスなら、届ける相手・届ける内容・届ける導線を設計した上で、自分たちで運営できる環境ごと選ぶことになる。Web制作会社は「作る」のが仕事なので、「あなたの会社には作りっぱなしで十分」とは言わない。設計の判断は自分たちでする必要がある。「作りっぱなし」が問題なのではなく、「考えずに作りっぱなし」が問題になる。


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