中小製造業がクラウドソーシングを使わないのは、もったいない

派遣はいいけど、クラウドソーシングは無理?

中小製造業で人手が足りないとき、まず検討されるのは派遣だろう。製造の現場に人を入れる、事務を手伝ってもらう——派遣は「人が来る」という形が見えやすいから、経営者にとっても現場にとっても馴染みがある。

一方で、クラウドソーシングとなると急にハードルが上がる。「うちみたいな製造業には関係ない」「情報漏洩が心配」「どう頼んでいいか分からない」。理由は様々だが、検討すらせずに選択肢から外している会社が多い。

しかし、派遣とクラウドソーシングは競合する手段ではなく、使い分けるものだと思っている。そして、使い分けられる会社のほうが強い。

派遣とクラウドソーシングは構造が違う

派遣は「人が来る」。クラウドソーシングは「仕事を出す」。この違いは大きい。

派遣の構造:

  • 物理的に来てもらう(常駐が基本)
  • 時間で契約する
  • 地元の労働市場から探す
  • ある程度の期間、継続的に来てもらう前提

クラウドソーシングの構造:

  • リモートで完結する
  • 成果物や業務単位で契約する
  • 国内全域(場合によっては海外)から探せる
  • 必要なときだけ、必要な分だけ頼める

派遣が向いているのは、現場に物理的にいる必要がある仕事。製造ラインの作業、来客対応、現場での検査——これは人が来ないと始まらない。

一方で、データ入力の設計、業務フローの整理、ちょっとしたツールの開発、デザイン、営業資料の作成——こうした仕事は、必ずしも現場にいなくてもできる。ここにクラウドソーシングが使える。

「国内全域から探せる」の意味

派遣で専門性の高い人材を見つけるのは苦労する。地元の派遣会社に登録している人の中から、自社の業務に合うスキルを持った人を探すことになる。数十人規模の中小製造業が、地元で都合よくITに強い人材やCADに詳しい人材を見つけられるかというと、かなり難しい。

クラウドソーシングなら、国内全域が対象になる。優秀な人材は多い。家庭の事情で通勤が難しい人、地方に住んでいて近くに仕事がない人、フリーランスとして専門スキルで勝負している人——こうした人たちが登録している。地元の派遣では絶対に出会えない人材に、スポットでアクセスできる。

普通なら雇おうとも思わないような専門性を持った人に、必要な分だけ仕事を頼める。これは中小製造業にとって、構造的な優位性だと思っている。

案件を見ていて思うこと

クラウドソーシングの案件を定期的にチェックしているが、成長意欲のある中小企業は貪欲にクラウドソーシングを活用している。業務改善のツール開発、データ分析、マニュアル整備、Webサイトの改修——自社で手が回らない仕事を外に出して、会社を前に進めようとしている。

「うちは製造業のBtoBだから」「うちみたいな規模では」と思っている会社もあるが、関係ない。クラウドソーシングは業種や規模を選ばない。使うかどうかは、会社の姿勢の問題だと感じる。

一方で、構造的な問題もある。買い叩きは実際に存在する。どう考えても安すぎる金額で発注している案件を見かけることがある。安く出せば応募は来るかもしれないが、まともな人材は相場を知っている。適正な価格を出さなければ、まともな成果は返ってこない。これは派遣でも外注でも同じことだが、クラウドソーシングでは特に顕著に出る。

情報漏洩のリスクにどう向き合うか

クラウドソーシングに踏み出せない理由として一番多いのが、情報漏洩のリスクだと思う。社外の人間に業務を任せる以上、このリスクをゼロにはできない。ただ、ゼロにできないのは派遣でも外注でも同じことで、問題はリスクの大きさではなく 制度設計 にある。

大事なのは、 外部の人間がアクセスできる情報を限定する制度設計 を作ること。

社内LANには入れない。グループウェアも、社内の情報がやり取りされている環境にそのまま入れるのはリスクがある。外部の人材とのやり取りは、専用のチャットチャンネルやクラウドストレージなど、業務に必要な範囲に絞った経路で行う。

これは相手を信用していないから、ではない。 お互いのため になる。万が一、社内で情報漏洩が起きたとき、社内の情報に広くアクセスできる外部の人間がいれば、当然その人が疑われる。アクセスできる範囲を最初から限定しておくことは、発注側を守るだけでなく、受注側の人間を守ることでもある。

以前の記事でも書いたが、外注先をチャットに入れる運用は実際にうまくいっている。クラウドソーシングでも同じ構造が使える。専用のチャンネルで仕事のやり取りをして、込み入った話はWeb会議に切り替える。必要十分な情報共有はこれで成立する。

中小製造業の社内連絡は、メールでも電話でもなくチャットがちょうどいい

インフラがないと始まらない

ここまで読んで気づくかもしれないが、クラウドソーシングを活用するには前提がある。 チャットとWeb会議の環境が社内に整っていること だ。

メールだけでクラウドソーシングの相手とやり取りするのは現実的ではない。返信に時間がかかる、ニュアンスが伝わらない、ファイルの受け渡しが煩雑——これではスポットの外部人材をうまく使えない。

逆に言えば、社内のコミュニケーション基盤を整えた会社は、副産物として外部人材の活用基盤も手に入れている。チャットにアカウントを追加すれば、社内メンバーと同じように仕事のやり取りができる。Web会議があれば、画面共有しながら図面や資料の確認ができる。

中小製造業の拠点間コミュニケーションは、OSSとUSBイヤホンで十分だった

DXの入り口としてチャットやWeb会議を整備する話は以前の記事で書いた。あの投資が、外部人材の活用という形でさらにリターンを生む。

中小製造業のDXは「改善」の前に「地固め」から始める

リモート環境は採用にも効く

クラウドソーシングのためにリモート環境を整えると、実は採用面でも変化が出る。

求人を出すとき、「一部リモート可」と一言入れるだけで、求職者の反応は違う。中小製造業の求人は勤務地が限られることがネックになりがちだが、事務系やIT系の業務でリモートの選択肢があるだけで、応募の間口は広がる。

クラウドソーシングのために整えたチャットやWeb会議の環境は、そのままリモート勤務の基盤になる。社内にリモートで仕事を進める経験が蓄積されていれば、採用した人材にも同じ仕組みを適用できる。

人材確保が難しい中小製造業にとって、リモート環境は「外部人材の活用」と「採用力の強化」の両方に効く投資になる。

優秀な人材に慣れること

一つだけ付け加えると、クラウドソーシングで見つかる優秀な人材は、社内のメンバーとは仕事の仕方が違うことがある。自分で判断して動く、曖昧な指示には確認を返してくる、成果物のクオリティが想定以上——そういう人材に慣れていないと、最初は扱いに戸惑うかもしれない。

しかし、会社を成長させたいと思うなら、そういう人材の力を借りることに意味がある。優秀な人材と仕事をする経験は、社内の仕事の進め方にも良い影響を与える。外部の力を借りることは、単にリソース不足を補うだけでなく、会社自体の仕事の水準を引き上げるきっかけにもなる。

まとめ

派遣とクラウドソーシングは対立する選択肢ではない。現場に人が必要なら派遣、専門的なスポット業務ならクラウドソーシング——使い分ければいい。

そして、クラウドソーシングを使える状態にするためのインフラは、社内DXの延長線上にある。チャットを入れた、Web会議を整えた——その環境は、社内の改善だけでなく、外部の人材を活用するための土台にもなっている。

中小製造業だからクラウドソーシングは関係ない、ということはない。むしろ、人材の確保に苦労する中小製造業だからこそ、国内全域から必要な人材を必要な分だけ借りられるクラウドソーシングは、もっと活用されていい手段だと思っている。


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