中小製造業のExcel棚卸し ── 「使っていますか?」では正体がつかめない

誰も全貌を把握していない

DXの地固めとして「データの棚卸し」が必要だという話は以前の記事で書いた。

中小製造業の内製DXは「改善」の前に「地固め」から始める

棚卸しの中で最も厄介なのが、Excelファイルの整理だと思っている。共有フォルダを開くと、大量のExcelファイルが並んでいる。名前を見てもわからないものが多い。中を開いても、いつ誰が何に使っているのか判別がつかない。

しかもこれが共有フォルダだけなら良い方で、個人PCのデスクトップやCドライブの奥にも散在している。社内のExcelファイルの全貌を把握している人は、まずいない。

「使っていますか?」が当てにならない理由

普通に考えれば、関係者に聞けばいい。「このファイル、使っている人はいますか?」と。

しかし実際にやると、これがうまくいかない。

  • 本人が忘れている。 毎月1回だけ使うファイル、年次の棚卸しでだけ使うファイルは、聞かれても思い出せないことがある
  • ショートカットの名前が違う。 デスクトップに「売上集計」というショートカットを置いているが、元ファイルは「2019_uriage_v3_final.xlsx」という名前で、別のファイルだと思っている
  • マクロの中から参照されている。 別のExcelのVBAが裏でこのファイルを読みに行っているが、使っている本人はそのことを知らない
  • 前任者から引き継いだまま放置されている。 「なんとなく消さないでおいてある」ファイルが大量にある

結果、「使っていない」と返ってきたファイルが、実は使われていたということが起きる。逆に「使っている」と言われたファイルが、もう何年も開かれていなかったりもする。聞いて回るだけでは、正確な現状は見えてこない。

「移動して反応を待つ」という方法

自分がたどり着いたのは、少々強引だが確実な方法になる。

正体がわからないファイルを、元の場所から別のフォルダに移動する。

削除ではない。「退避」フォルダに移すだけ。ファイルは残っているので、いつでも戻せる。

すると何が起きるか。そのファイルを実際に使っている人が、開こうとしたときに「ファイルが見つかりません」とエラーが出る。ショートカットもリンクも切れる。そうすると、その人から連絡が来る。

「あの、○○というファイルが見つからないんですけど」

この連絡が来た時点で、そのファイルは確実に使われていることがわかる。誰が、何の目的で使っているかも、その場で聞ける。聞いて回るより、はるかに正確な情報が取れる。

前提としてフォロー環境が必要

ただし、この方法には前提がある。 ファイルが見つからないときに、すぐに相談できる環境が整っていること。

チャットがあれば、「○○ファイルが見つかりません」と一言投げるだけでいい。DX担当者はすぐに対応して、退避フォルダから戻せる。

中小製造業の社内連絡は、メールでも電話でもなくチャットがちょうどいい

この導線がないと、ファイルが消えたと思って騒ぎになったり、DX担当者に連絡が届かないまま業務が止まったりする。地固めの第一歩としてチャットを入れておく理由は、こういうところにもある。

この方法の弱点:1年はかかる

反応を待つ方法の弱点は、時間がかかること。

月次の処理で使っているファイルなら1ヶ月以内に連絡が来る。しかし、年に1回しか使わないファイルは、1年待たないと判明しない。年次決算、年末調整、繁忙期だけ使う特殊な集計ファイル——こういうものは意外と多い。

だから、この方法だけに頼るわけにはいかない。現実的な進め方はこうなる。

1. まず聞ける範囲で聞く。 各部署のキーパーソンに、日常的に使っているExcelを教えてもらう。完璧でなくていい。主要なものが把握できれば十分。

2. ファイルの最終更新日で機械的にふるいにかける。 2年以上更新されていないファイルは、使われていない可能性が高い。ただし、参照専用で開くだけのファイルは更新日が変わらないので、これだけでは確定できない。

3. 残ったものを退避する。 聞いても更新日で見てもわからないものを、退避フォルダに移す。

4. 1年は様子を見る。 この間に連絡が来たファイルは戻し、用途を記録する。1年経っても連絡が来なかったファイルは、ほぼ使われていないと判断できる。

重要なのは、どの段階でも 削除はしない ということ。退避であって削除ではない。万が一のときに戻せる状態を維持しておく。

棚卸しの目的はファイルの削減ではない

ここまで書くと「不要ファイルの整理術」に見えるかもしれないが、本当の目的はそこではない。

棚卸しの目的は、 どのExcelが、誰によって、何の業務に使われているかを可視化すること にある。

この情報が手元にあると、DXの次の一手が打てる。

  • どのファイルが業務の流れの中で重要なのかがわかる → データの文法の整理対象が決まる
  • 同じようなデータが複数のファイルに散在していることがわかる → 二重入力の解消ポイントが見える
  • 特定の人しか触れないExcelが見つかる → 属人化のトリアージと重なる

Excelのデータは「いつでもDBに移せる形」で持つ ── データの文法という考え方

棚卸しはファイルの掃除ではなく、DXの地図作りだと思っている。どこに何があるかわかっていれば、何から手をつけるかが見えてくる。


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