中小製造業の「強み」は、取引先との関係の中にしかない

自分たちの強みを説明できるか

中小製造業の経営者に「御社の強みは?」と聞くと、返ってくる答えはだいたい決まっている。「技術力がある」「柔軟に対応できる」「価格が安い」「納期に強い」。

間違いではないのだろう。しかし、その強みはどの取引先に対しても同じように機能しているだろうか。

以前の記事で「BtoB取引は既存の関係性で回っている」と書いた。値段が安ければ売れるという単純な話ではなく、長年の付き合いと信頼の上に受注がある。

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この構造を前提にすると、「強み」の意味がもう少し複雑になる。

会社の強みと、担当者の強みは違う

中小製造業の強みには、2つの層がある。

会社の強み は、人が変わっても残るもの。保有している設備、蓄積した加工ノウハウ、品質管理の体制、納期の実績——こうしたものは担当者が誰であっても変わらない。取引先にとって「この会社に頼めば品質が安定している」という評価は、会社の強みに基づいている。

担当者の強み は、人と人の間にあるもの。レスポンスの速さ、コミュニケーションのスタイル、相手のニーズを先読みする力、いざというときの融通——こうしたものは、担当者が変われば変わる。そして重要なのは、担当者の強みは相手との相性で価値が決まるということ。

「1言ったら10やってくれる」担当者がいるとする。信頼関係ができている相手にとって、これは最高の強みになる。しかし、まだ関係が浅い相手から見れば「説明もなく勝手にやる」と映る。提供しているものは同じなのに、受け取る側が変わると評価が逆転する。

うまくいっているときは区別できない

問題は、取引がうまく回っているときに、この2つが区別できないことにある。

取引先から「あの会社はいい」と言われているとき、それが会社の技術力への評価なのか、担当者同士の相性が良いだけなのか、混ざって見えている。たいていは両方が合わさった結果だが、どちらの比重が大きいかは見えない。

見えるようになるのは、何かが変わったときになる。

担当者が変わった。引き継ぎもした。技術力も設備も変わっていない。なのに取引先の態度が変わった——こういう場面で初めて「あの取引は、会社の力ではなく担当者の相性で成り立っていたんだ」と気づく。

以前の記事で、仕入先との関係が担当者の頭の中にしかない問題を書いた。あの記事では「情報」が属人化している話を中心に書いたが、属人化しているのは情報だけではない。 関係そのもの が特定の担当者に紐づいている。

中小製造業の仕入先との関係は、担当者の頭の中にしかない

関係の見方がずれている

もう一つ厄介なのは、自社と取引先の間で、関係の見方がずれていることがある点になる。

こちらにとっては複数ある取引先の一つでも、相手にとっては重要なパートナーかもしれない。逆もある。この非対称性に気づかないまま、自社の都合で担当者を変えたり、対応の優先度を下げたりすると、相手にとっては「大事にされていない」という信号になる。

相手は信頼関係だと思っている。こちらは業務上の取引だと思っている。このズレがあるから、担当者の交代を軽く扱ってしまう。相手の立場からすれば、長年の信頼を一方的にリセットされたように見える。

担当者が変わること自体が問題なのではない。関係を雑に扱うことが問題になる。

「この取引は何で成り立っているか」を把握する

ではどうするか。経営者が把握すべきなのは「うちの強みは何か」という自社目線の話ではなく、 「この取引は何で成り立っているか」 という取引ごとの見極めになる。

取引先ごとに、会社の強みと担当者の相性の比重は違う。

設備や技術力で選ばれている取引なら、担当者が変わっても関係は続く。会社の強みが土台にあるから、人が変わっても価値は変わらない。

しかし、担当者のコミュニケーションスタイルや対応力が関係の核になっている取引は、人が変われば関係も変わる。これは避けられない。避けられないからこそ、そのリスクを把握しておくことに意味がある。

以前の記事で属人化のトリアージについて書いた。致命的なものから順に対策を打つという考え方は、取引先との関係にも使える。

中小製造業は「脱属人化」ではなく「属人化のトリアージ」

すべての取引先との関係を組織的に管理するのは、中小製造業の体力では現実的ではない。しかし「この取引先との関係は、あの担当者がいなくなったら危ない」という認識を持っておくだけで、打てる手は変わってくる。

担当者を変えるなら、関係の接ぎ木をする

担当者の交代が避けられないなら、交代の仕方が問題になる。

一対一の関係をいきなり別の一対一に切り替えるのは、関係のリセットに等しい。引き継ぎ資料がどれだけ完璧でも、相手の信頼はデータでは移らない。

以前の記事で「接点を一人にしない」と書いた。これは平常時の備えだが、交代のときはさらに意識する必要がある。

中小製造業の仕入先との関係は、担当者の頭の中にしかない

一対一を一旦一対二にする。前任と後任が同時に関わる期間を設ける。相手に「この人にも信頼を渡していいんだ」と思ってもらう時間を作る。書類の引き継ぎではなく、関係の接ぎ木をする。

これは当たり前のことに聞こえるかもしれない。しかし、中小製造業では人数が限られているから、引き継ぎ期間を確保する余裕がないことが多い。結果として、ある日突然「担当が変わりました」になる。相手から見れば、関係を雑に扱われたとしか映らない。

強みは自分で決めるものではない

中小製造業の強みは、カタログに書けるスペックだけでは説明できない。設備や技術力という会社の強みは確かにある。しかし、それを「強み」として受け取ってくれるかどうかは、取引先との関係の中で決まる。

自分たちが思う強みと、相手が感じている価値は、必ずしも一致しない。一致しているうちはうまくいく。しかし、担当者が変わったとき、相手の経営方針が変わったとき、そのズレが表面化する。

取引先との関係を雑に扱わないこと。自社の強みが関係の中でどう見えているかに意識を向けること。そして、担当者に紐づいた関係がどれだけあるかを把握しておくこと。

地味な話だが、これは中小製造業が長く取引を続けていくための、最も基本的な経営判断の一つだと思っている。


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