中小製造業の資金繰り予定表に、内製DXはどこまで効くか

資金繰り予定表の「変動費」はどうやって埋めているか

受注生産の中小製造業なら、資金繰り予定表は作っているだろう。入金予定と出金予定を並べて、向こう数ヶ月の資金の過不足を見る。経営の基本になる。

入金側は比較的見通しが立てやすい。販売管理ソフトに受注を登録していれば、納期と顧客ごとの回収サイト(締日・支払日)から入金予定が組める。すでに出荷・請求済みの売掛金は会計ソフトにも入っている。

出金側のうち固定費——家賃、リース料、給与、社会保険料——も毎月ほぼ一定で、過去のデータから予測できる。すでに発注済みの材料費や外注費は、販売管理に買掛として入っているから出金予定は見える。

では、受注は決まっているが、まだ材料を手配していない案件の変動費 はどうやって予定表に載せているか。

ここが資金繰り予定表の最も作りにくい部分になる。受注残が多い会社ほど、この「受注済み・未発注」の層が厚い。

しかもこの変動費の根拠データは、経理からは入手しづらい構造になっている。材料費や外注費の内訳を持っているのは設計部門で、積算資料(見積もりの原価明細)の中にある。資金繰り予定表を作る経理と、変動費の根拠を持つ設計が別の部門にいるから、案件ごとの積算が予定表に反映されにくい。結果として、経理は経験則や過去の傾向で埋めることになるが、受注の内容によって変動費は大きく変わるから、精度に限界がある。

受注が増えれば運転資金も比例して増える。その見通しの精度を左右するのが、この未発注分の変動費をどれだけ正確に予定表に載せられるか、という部分になる。

設計の積算データを経理につなげる

ここで内製DXの出番がある。

受注生産では、すべての受注に見積もりがある。設計部門が作る積算資料の中に、材料費と外注費の内訳がすでに入っている。つまり受注残の全案件について、変動費の根拠データは社内に存在している。問題は、そのデータが資金繰り予定表に活用できる仕組みになっていないことにある。

以前の記事で「見積もりは使い捨てにするには惜しいデータ」と書いたが、資金繰りの文脈でも同じことが言える。

受注生産のデータは見積番号から始める ── 受注起点では見えないフィードバックループ

やることは、受注データに以下の情報を紐づけるだけになる。

  • 入金側: 納期 → 請求 → 回収サイト → 入金予定日
  • 出金側: 見積の材料費・外注費 → 仕入先の支払条件 → 出金予定日

これを受注案件ごとに並べれば、「この案件は出金が入金より2ヶ月先行する。その額は約○万円」という見通しが立つ。受注残の全案件を積み上げれば、資金繰り予定表の変動費の部分が、経理の経験則ではなく設計の積算データに基づいた数字で埋まる。

内製DXの仕事は、設計部門が持っている積算データを、経理が資金繰り予定表に使える形で引き出すこと。新しいデータを作る話ではなく、すでに社内にあるデータを部門をまたいでつなげる話になる。

来月の案件も3ヶ月先の案件も、見積もりを出している以上、予測の精度は同じになる。受注生産の強みは、受注残の範囲内であれば時間軸に関係なく同じ精度で出金を予測できることにある。見えないのは受注残の外——まだ受注していない仕事だけになる。

もちろん、資金繰りの実態は会社によってまったく違う。数ヶ月かけて大型設備を1台作る会社なら、1案件の出金インパクトが大きく、その1件の入金タイミングで資金繰りが左右される。数日で小物部品を数百個作る会社なら、1案件ごとの影響は小さいが、件数が多い分だけ全体の積み上げが要る。どちらにしても、見積データを資金繰り予定表につなげる原理は同じになる。

精度は見積の精度で決まる、でもそれで十分

予測の精度は見積もりの精度に依存する。見積ベースの材料費と実際の仕入額は一致しない。ただし、ここで必要なのは1円単位の正確さではなく、 「資金がショートしそうかどうか」の判断材料 になる。以前の記事で原価管理の精度について「70点で十分」と書いたが、資金繰りの予測も同じ。見積もりの読みが大きく外れていなければ、見通しとしては十分に使える。

受注生産・多品種少量の中小製造業における原価管理の「落とし所」

もちろん、DXで改善できるのは予定表の精度まで。支払条件の交渉、大口案件の前受金、金融機関との資金調達——こうした資金繰りそのものの改善は経営判断の領域であり、データの問題ではない。

ただ、3ヶ月先に資金が足りなくなりそうだとわかっていれば、手の打ちようはいくらでもある。来週の支払いに足りないとわかったときには、選択肢はほとんどない。予定表の変動費が経験則ではなくデータで裏付けられていれば、経営者はより早く、より正確に手を打てる。

中小製造業の「値決めできない」問題に、内製DXはどこまで効くか

受注が増えて会社が成長するとき、運転資金の負担は必ず大きくなる。設計の積算データを資金繰り予定表につなげておくこと。経理の仕事を代替するのではなく、設計部門が持っている原価情報を、経理が使える形で届けること。部門をまたぐデータの橋渡し——それが資金繰りにおける内製DXの役割になる。


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