中小製造業の内製DX ── 同じ問題が2回起きたら「仕組み」を疑う

製造現場はすでに「仕組みで防ぐ」を知っている

製造現場にいた頃から感じていたことがある。現場にはポカヨケ、QC活動、標準作業手順書といった仕組みがあって、同じ不良が2回出たら作業者を責めるのではなく工程を疑う。「人の注意力」ではなく「工程の設計」で品質を守るという考え方が、意識しているかどうかに関わらず根付いている。

ところが同じ会社の事務・管理業務になると、この発想が出てこないことが多い。

事務の世界は「気をつけます」で終わる

見積もりの転記ミス、発注漏れ、納期の伝達ミス。事務のトラブルが起きたとき、原因追及の結果はだいたい「担当者の確認不足」になる。対策は「今後気をつけます」。しばらくすると同じミスがまた起きる。

製造現場で同じことをやったら「それは対策になっていない」と言われる。注意力に頼る品質管理は管理になっていない、というのは現場では常識だと思う。なのに事務の世界では、同じ構造がそのまま通っていることが多い。

理由は、事務作業には「工程」という概念が薄いことにあると思っている。製造は物が流れるから工程が見える。事務は情報が流れるが、その流れが可視化されていないことが多い。だから「どの工程で漏れたか」ではなく「誰がミスしたか」に話が向きやすい。

「誰が悪い」ではなく「何が悪い」

同じ問題が2回起きたら、人ではなく仕組みを疑う。

1回目は仕方がない。想定外のことは起きる。ただ2回目が起きたということは、1回目のあとに仕組みとして手を打てていなかったということになる。「なぜ起きたか」よりも「なぜ防げなかったか」の方が、改善につながる問いになる。

具体的には、こういう手の打ち方がある。

  • 入力時にありえない値を弾く(入力制限)
  • チェックリストで抜け漏れを防ぐ(標準化)
  • 承認フローを入れて、1人の判断だけで進まないようにする(ダブルチェック)
  • そもそも手入力をなくす(データの自動転記)

どれもExcelやVBAのレベルで実装できる。大がかりなシステムは必要ない。

中小製造業の業務プロセスは、ワークフローで「型」にして定着させる

エラーは起きる前提で「戻し方」を設計する

仕組みで防ぐといっても、すべてのエラーを事前に潰すことは難しい。だからもう一つ重要なのが、「エラーが起きたあとに、どれだけ早く気づけるか」「どれだけ簡単に戻せるか」という設計になる。

同じ発注ミスでも、出荷後に気づくのと入力直後に気づくのでは、リカバリーのコストがまるで違う。ミスそのものを減らす努力と同時に、ミスに早く気づく仕組みを入れておくことで、影響を最小限に抑えられる。

自分はセキュリティの記事で「守り方より戻し方」と書いたが、業務プロセスにも同じことが言える。完璧に防御しようとするより、異常に早く気づいて戻せる状態を作っておく方が、結果的に業務は安定する。

中小製造業のセキュリティは「守り方」より「戻し方」

事務にも「工程」を持ち込む

製造現場に品質管理の考え方が定着しているのは、工程が見えているからだと思う。逆に言えば、事務・管理業務でも情報の流れを「工程」として可視化すれば、同じ考え方が使えるようになる。

見積もりの作成→承認→発注→納品確認→請求。この流れをワークフローとして定義し、各ステップにチェックを入れる。すると「誰がミスしたか」ではなく「どのステップで漏れたか」という話に変わる。

内製DXの役割は、こうした工程化と、エラーの検知・回復の仕組みをセットで作ることにある。Excelの入力規則、VBAによるチェック処理、簡易的なワークフロー。道具は地味でも、「人の注意力に頼らない」という設計思想が入るだけで、事務作業の信頼性は変わってくる。


このシリーズの他の記事:

シリーズ記事一覧・著者への相談はこちら →